第8章 激動のパンフェスティバル
プリンの特技は、猫かぶりである。
子だくさんのくせに自分の子より己の欲求を優先するような毒母のもとに生まれたため、良い子のフリばかりせざるを得なかった悲しき特技。
しかしその外面は永遠に保たれるわけではなく、猫をかぶっても利益のない人間、もしくは身内と判断した人間にはあっさりと地を見せた。
ムギとボニーなどはとっくに身内判定されているのだが、その彼氏のローは微妙なところである。
ハイスペックな男を落とそうと当初は狙っていたけれど、真実の愛を見つけた今、媚を売る必要なんてまるでない。
まるでないが、気に入られたかった当初の名残か、辛辣な罵声を浴びせようとまでは思わなかった。
「乗せていけって……、一緒に軽井沢まで? それはちょっと、誤解とかされたら嫌よ。」
軽井沢の地にはプリンが恋するサンジがいるから、ローと一緒に行動して万が一にも誤解されたら困る。
そう、サンジに誤解されたくないだけで、ムギに嫌われたら……なんてそんな心配をしているわけではない。
ないったら、ない。
しかし、そんなプリンの心配は、ローからもたらされた情報によって軽く吹き飛ぶ。
「悪いが俺は急いでる。誰に誤解される心配をしてんだかは知らねェが、お前に頼み事をしたそのムギが、黙ってグル眉野郎とフェスティバルへ行きやがった。」
「グル眉って、サンジさんのこと? え、ムギと二人で? え? は??」
数秒前のプリンは、できたばかりの同性友人を大切にしたい可愛い女の子であった。
でも、今は。
「は? 私のサンジさんと二人で? は? は?」
愛らしい目がみるみるうちに吊り上がり、チョコレート色の髪が逆立つ。
「冗談じゃないわよ! 万が一、いえ億が一にも間違いがあったらどうしてくれんの! ちょっとローくん、なにボサッと立っているの! 早く軽井沢まで行くわよッ!!」
お付きのドライバーに後部座席のドアを開けさせたプリンは、先ほどとは手のひらを返した態度でローの同乗を許した。
三つ目の悪鬼様降臨である。