第8章 激動のパンフェスティバル
レイジュからパンフェスのチラシを貰ったローは、ひとまずバラティエを離れた。
会場となる地はメールに記載されていたとおりの軽井沢。
今からバイクを飛ばして向かってもいいが、ローのバイクはカーナビが搭載されておらず、スマホの地図アプリを使うにしても取り付けるアクセサリーがない。
あらかじめルートを検索して覚えていってもいいが、さすがに軽井沢までとなると途中で何度か足を止める必要があるだろう。
仕事が絡んだ旅行を浮気だなんだと騒ぎ立てるつもりはないが、やはり心配だから一刻も早く現地にたどり着きたい。
「……ローくん?」
知らない女の声で名前を呼ばれ立ち止まると、信号待ちをしていた高級車の窓からチョコレート色の髪をした女子がこちらを見ていた。
「こんなに朝早くに奇遇ね。ムギをパン屋に送ってあげてたの?」
馴れ馴れしく話しかけてきた女に不快感を覚えかけたが、ムギの名前が出たことでそれも消える。
よくよく記憶を辿ってみれば、ムギを合コンに連れてきたあの女だ。
確か、名前は。
「プディング。」
「プリンよ! シャーロット・プリン! 人の名前をちょっとオシャレに変えないでくれる?」
プディングがプリンよりもオシャレかどうかはさておき、道ばたで世間話をしている暇はない。
しかし、彼女にはムギが世話になっているようだから、無視をするわけにもいかないだろう。
不義理にならない程度に会話を切り上げようとした時、プリンの視線がローの手元に移る。
正確には、ローが持ったパンフェスのチラシに。
「ああ、そのパンフェスティバル。まさか、ムギのために行ってあげるつもり? 私もこれから行くんだけど、あの子にあれこれ頼まれたのよ。」
「……なに?」
ローが鋭く反応したのはもちろん、プリンの行き先。
まさに渡りに船で、歩道を下りて車に詰め寄る。
「おい、フェスティバルに行くなら俺も乗せていけ。」
人に頼み事をしているとは思えない尊大な態度で、軽井沢への同行を願い出た。