第8章 激動のパンフェスティバル
だってほら、緊急事態だったから。
ギンが怪我をして動揺したし、お店の損害も心配したし、パンフェスへの夢もテンションも膨らんだから。
まあ後半部分は置いておいたとしても、前半部分は仕方のない出来事だったはずだ。
そんなことを思いながら、ムギはずっとスマホのディスプレイを見つめている。
真っ白なメール画面は、いくら見つめていても文字で埋まらない。
「ムギちゃん、どうした? なんかマズイことでもあった?」
「や、大丈夫です。」
嘘だ、マズイことならあった。
ありまくった。
心配がご趣味なムギの彼氏は、連絡もなく果てない大地へ旅立つことを良しとは思わないだろう。
(いや待って。別にわたしは遊びに行くんじゃないんだし、連絡だってまだ間に合うでしょ。)
そう、これはれっきとした仕事である。
ドラマでよくある「私と仕事、どっちが大事なの!?」な展開にはさすがにならないだろう。
たぶん。
「……よし。」
これは仕事、後ろめたさを感じる必要はない。
そう決めつけたムギはネットで仕事っぽいビジネス文書を検索し、なんかこう、仕事っぽい文面になるよう試行錯誤した。
完成した文章を読み返し、思いのほかそれっぽくなった雰囲気に満足する。
(いいじゃんこれ。仕事っぽい感じが出てるし、これならローもしょうがないなって思ってくれそう。)
日常生活においてまったく使わないそれらの言葉は、半分以上が意味不明であったが。
いいのだ、要は雰囲気が大事なのだから。
「そろそろ会場に着くけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫です! 問題はすべて解決しました!」
ちょっぴり自画自賛した文章をローにぽんっと送りつけ、心配事は解消。
気遣うサンジに満面の笑みで頷いた。