第8章 激動のパンフェスティバル
「パンフェスですって……!?」
「あっぶね、急に立ち上がんなよ。ジュースが零れるだろ。」
倒れかけた缶ジュースを避難させたボニーに睨まれても、興奮冷めやらぬプリンは気にした様子もなくずいっと身を乗り出した。
「場所は? 日にちは? 泊まるホテルの名前は!?」
「ら、来週の土曜日に、軽井沢で。ホテルの名前はちょっとわかんないな。……ていうか、それを知ってどうするんです?」
「当然! 同じホテルに泊まって既成事実をでっち上げるに決まってんでしょ!!」
「うわ、怖い……。」
でっち上げると言っているあたり、策略的なナニカを感じる。
親しい先輩の恋を応援するべきか、それともバイトの先輩上司を守るべきか悩む案件だ。
「サンジさんがどこに泊まるか、ちゃんと調べておいてよね!」
「……はあ。」
というか、パンフェスにはサンジではなくギンも参戦するのだ。
舎弟の如くサンジを慕っている彼を差し置いて、サンジとどうにかなるのは無理だと思う。
(……ま、いっか。一緒に軽井沢へ行って応援しろって言われているわけじゃないし。)
むしろ、軽井沢へ連れていってあげるから応援してほしいと言われたい。
そうすれば、ムギも夢のイベント――もといパンフェスティバルをこの目で見て、この舌で堪能できるのに。
まあ、そんな願望は、土曜日がバイトという現実によって儚く散るわけだが。
「本当に軽井沢に行くつもりなら、お土産にパンを買ってきてくださいね。あ、できれば冷凍保存してください。」
「はあ? どこの世界にクーラーボックス持参で好きな人に会いに行くバカがいるのよ。」
「じゃあ、クール便でいいです。平日の遅い時間なら受け取れるので! あ、あとでわたしの住所、メールしておきますね!」
「ず、図々しいわね、あんた。普段のケチっぷりはどこにいったのよ。」
「わたしはケチじゃありません。正しいお金の使い道を知っているだけです!」
例えば、美味しいパンとか、地域限定のパンとか、数量限定のパンとか。
ムギのパンフェスに対する憧れは強い。
それはもう、大事なことが頭からすっ飛ぶくらいには。