第7章 トラ男とパン女の攻防戦
答案用紙を握りしめたムギは、そのまま教室を飛び出した。
廊下を駆け、靴を履き替え、矢のように飛んでいく。
しかし、いくら速く走ろうとも目的地に瞬間移動できるわけでもないので、昇降口を出たところで電話を掛けた。
着信履歴の一番頭にある相手のナンバーをタップすると、すぐにコール音が鳴る。
スマホを弄っていた最中だったのか、電話の相手はワンコールもしないうちに出てくれた。
『……終わったのか?』
「おわ、終わりました! それで、すごくいい点数が取れて! あ、今大丈夫ですか?」
興奮気味に用件を伝えたのち、相手の……ローの状況を尋ねた。
ふっと吐息だけで笑った音が聞こえて、すぐに「大丈夫だ」と返答がある。
「留年、回避できたんですよ! 問題も、ローに教えてもらったものばかりが出て! それで……!」
『わかった。わかったから落ち着け。』
声のボリュームが加減できないムギは、言われたとおりに落ち着こうと深呼吸をした。
一度落ち着いてみると周囲の景色が見えてきて、夕焼け色に染まった空が普段より遅い下校時間を知らせる。
二時間ほど遅い昇降口には早めに部活を終えた生徒がちらほらいて、校門へ向かって歩いていく。
進行方向が同じなムギは、その人波に沿いながら歩みを進めた。
「83点も取れたんですよ。わたし、80点代なんて小学生以来で……!」
『ふ……、そりゃァよかったな。』
「今ちょっと、馬鹿にしました?」
『今さらだろ。』
20点代のテスト結果を見られているローにとっては、確かに今さらだ。
そしてそれについて恥じらいを感じなくなっている自分もどうなんだろうと思いながら他愛もない会話を続けていたら、校門へ近づくにつれて妙に騒がしくなってきた。
『どうした?』
「ん、いや、なんか……、学校の様子がいつもと違うような。」
特に、女子。
帰宅するであろう女生徒が頬を染めながら駆け戻ってくる。
まるで、憧れのアイドルにでも遭遇したかのような反応だ。
そこで、とある可能性が脳裏に浮かぶ。
ムギは馬鹿だが、勘が悪いわけではないのだ。
「あの、つかぬことを聞きますけど、今どこにいますか?」
『さあ、どこにいると思う?』
この、悪戯っぽく質問を返す口調が、ムギの勘が当たっていると告げていた。