第7章 トラ男とパン女の攻防戦
放課後に実施された再テストの結果は、ムギの目の前で採点された。
教室に集まった生徒の中にはムギと同じく苦難を乗り越えた者、絶望の境地にいる者、すべてを諦めた者と様々いるが、ムギほど自信に満ちた顔をしている者はいない。
手応えは、あった。
あれ、テストってこんなに簡単だったっけ?と思うほど、問題がすらすら解けた。
すべてはムギにつきっきりで付き合ってくれた家庭教師……もとい彼氏のおかげで、彼の面子を守るためにもドジは踏めない。
この自信が空回りしていないことだけを祈りながら数学教師であり、担任の教師でもあるスモーカーの顔を睨むように見つめたら、採点を終えた彼が顔を上げた。
「米田。」
「はい!」
一番最初に名前を呼ばれ、訓練を受けた海軍兵士みたいに直立した。
くいっと顎をしゃくって呼ばれ、これまた軍隊さながらの行進をしながらスモーカーの前までやってきた。
教師のくせに重度の愛煙者であるスモーカーからは、煙草特有の異臭がした。
少し前まで紫煙をふかしていたであろう唇の端が、にやりと上がる。
「頑張ったじゃねぇか。」
その一言だけで、ムギの努力の行方が知れる。
渡された採点済みの答案用紙には、83点という歴史的快挙が刻まれていた。
ちなみに以前の点数は100点満点中、半分の、さらに半分である。
三倍以上の点数を叩き出したムギは感動で震え、その様子を担任教師が満足そうに眺め、頭にぽんと手を置いた。
「たしぎから聞いたぞ。お前、あいつからも課題を出されたんだって? テストの前だ、課題を提出できなくても口効いてやろうかと思ったが……、余計な心配だったみてぇだな。」
再テストも、英語の宿題も、すべてはムギの身から出た錆。
けれど、その努力を認められて褒めてもらえると、涙が出るほど嬉しかった。
「これからは、もっと真面目に勉強しろよ?」
「はい!」
答案用紙を握りしめたまま、首が捥げるほどの勢いで頷く。
人生初の高得点。
この喜びと達成感を誰に伝えたいかと問われたら、それこそ簡単すぎる問題だ。
ムギを助けてくれたのは、世話焼きすぎの彼氏なのだから。