第7章 トラ男とパン女の攻防戦
勉強がしたい。
馬鹿でも精一杯頑張って、テストの赤点を回避したい。
勉強はしたい。
限りある時間を暗記に費やし、留年の危機を回避したい。
ムギは言った。
勉強をしたいと。
しかし、決して、このような形で勉強したいわけでなく。
「a2+2ab+b2はなんの公式だか、早く答えろよ。」
謎の数学呪文と共に、ぐちぐちといやらしい水音が部屋に響く。
本来であれば一緒に聞こえてくるはずもない音が、ムギの思考を惑わせる。
「な…ぁ……、そんなの、今じゃなくたって…ぇ……ッ」
「今じゃなきゃ、意味がねェ。さっきも言っただろ、多少の荒療治は必要だ。」
口で言っても覚えられないのなら、身体に直接覚えさせるしかない……とでも言うように、ローの長い指がぬるつく蜜路をぐるりと掻き混ぜる。
「あ、あぁ……ッ」
一度達してしまった秘処は敏感になっていて、内壁を擦る指をもっと深く飲み込もうと妖しく蠢く。
昨夜はその誘いに乗って指を沈めたローだけど、今日は焦らすように浅いところを行き来してばかり。
「ん、ん、あ……ッ」
「もっと奥に欲しいのか?」
切ない疼きがムギを甘く苦しめて、恥じらいも捨ててこくこく頷いた。
珍しく素直に答えたというのに、やはりムギの恋人は意地が悪い。
別名スパルタとでも言うべきか、二本に増やした指で中を押し広げながら、再び問い掛けてくる。
「なら、答えられるだろ? a2+2ab+b2の公式は?」
「ひ…ぅ……、(a+b)2……?」
切羽詰まったムギが問いの答えを口にできたのは、ただの偶然だったのかもしれない。
けれど、にやりと口角を上げたローの唇がムギの頬に落ちて、艶っぽく囁いた。
「正解。」
囁くと同時に指が深く沈んで、ムギが感じる壁を擦る。
奥の方を抉られた途端、痺れるような快感が全身を突き抜けたけれど、二度目の絶頂にまでは至らなかった。
なぜなら、刺激していた指が引き抜かれたから。
「……(a+b)3の解き方は?」
「ん、え……?」
まさか、覚えられるまでこの苦悶を続けさせるつもりか。
鬼教官もびっくりなシゴキに、ムギは初めてローに教えを乞うたことを後悔した。