第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギが買ってきた三つのおにぎりは、ローの胃袋にぺろりと収まった。
遅めの朝食だか早めの昼食だかわからない食事を終えたあとは、昨夜と同じく勉強に精を出す。
ムギが広いと感じたテスト範囲はローに言わせてみれば子供の遊びと同義らしく、わかりやすく丁寧に、ついでにテストに出やすいポイントまで教えてくれた。
ただ、やはり暗記すべき数式だけは覚えられなくて、出題された問題に違う数式を当てはめてしまうことがしばしば。
「違う、ここの式はa3+3a2b+3ab2+b3だ。」
「あぁ~ッ、もう! 数学なんてこの世からなくなってしまえ!」
「このやり取り、昨日もしたと覚えているか?」
同じセリフを吐いたのは覚えている。
が、同じはずである数式はなんどやっても頭に入ってこない。
「小麦粉の配合率を――」
「言わなくていい。来い、休憩にするぞ。」
手招きされて、リビングのソファーへと移動した。
ここはムギの家で、ローがここに来るのはまだ三度目のはずだが、ずいぶんと馴染んでいるのは気のせいだろうか。
ソファーの背もたれに頭を預け、目を閉じながら深いため息を吐く。
ローのおかげで勉強は格段に捗っているけれど、この調子で明日のテストを無事に乗り越えられるだろうか。
「ほら、コーヒー。」
「あ、どうも。」
二つのマグカップを持ったローが、ソファーに座る。
隣に腰を下ろし、体重に比例してソファーがぎしりと沈んだ。
(……近い。)
ムギとローの距離は、数字にして0センチ。
つまり、密着している。
足を組んだローの長い片脚がムギの太腿に寄り添って、やんわりと圧を加えてくる。
はっきり言って、重い。
そっと腰を浮かせて距離を取ろうとしたら、先を読んだかのように伸びてきた腕がムギの肩を抱いた。
「……なんですか?」
「あ? なにがだ。」
「窮屈なんですけど。」
「これくらい、普通だろうが。」
断じて普通ではない。
普通ではないが、恋人同士の適切な距離を知らないムギは言い返すことができず、むむっと押し黙る。
肩を抱いた腕がぶらりとムギの胸で揺れ、心地よさそうに寛いでいる。
はっきり言って、重い。