第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギの反応が癪に障ったのか、小さく低い鼻をぎゅっと抓まれた。
「ふぎゃッ! なにするんですか!」
「うるせェ。人が真剣に話してんのに、イラつく顔をするからだ。」
「はあ、それはすみませんね。……で、パンが好きな男の人がなんですって?」
抓まれた鼻をさすさす撫でながら理由を追求すれば、今度はむっつりと黙り込んだ。
不機嫌な瞳が「そのくらい察せ」と語っているが、ムギはあまり空気が読めるタイプではないので、気難しいローの心はわからない。
やがて諦めたのか、重々しいため息を吐いたローがぽつりと呟く。
「………だろうが。」
「え? なんですか?」
「だから……ッ、バカでアホなお前のことだから、目の前にパン好きな男が現れたら、どうせホイホイついていくんだろうが!」
半ば自棄のように吐き捨てられ、ムギは目を点にした。
まず、ひとつ目。
世間にはパンがめちゃくちゃ好きな男性は、わりと存在している。
そんな男性が目の前に現れたからといって、なにがどう変わるというのか。
パン談義ならば喜んで付き合うが、それだけだ。
そして、二つ目。
ホイホイついていくとはどういう意味なのか。
まさかとは思うが、パンを餌にムギが知らない男についていくとでも思っているのか。
以前プリンにはパンで釣られたが、あれは一応知り合いなのでノーカウント。
「ついていきませんよ、子供じゃあるまいし。」
「どうだかな。お前の行動は信用ならない。あのストーカー野郎の家にだって、単身突っ込みやがったじゃねェか。」
「根に持ちますね、それ。アブ兄の件は、あれでも一応家族の家ですから。知らない人にはついていきませんって。」
ふん……と鼻白むローの顔には「信用していません」とわかりやすく書いてある。
「とにかく、万が一に備えてパンが食えるようになる必要がある。訓練は続けるつもりだ。」
「ああ……、そうですか。」
よくわからないが、それでローが納得できるのならいいか。
それにしても、存在すらしていない間男を警戒するなんて過保護というか、世話焼きというか。
ご自慢の世話焼きスキルに拍車が掛かっているような気がする。