第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
ムギの行為はただの押しつけだと指摘され、しゅんと落ち込んで黙り込んだ。
すると、明日の仕込みをしていたゼフが気まずげな咳払いをする。
本気でムギが落ち込むと、ゼフは決まってそわそわするのだ。
毒舌パン職人も、パンを愛する看板娘には弱い。
「まァ、なんだ……。パンが嫌いなら、パンらしくないパンを勧めたらどうだ?」
「パンらしくないパン? って、そんなパンありますか?」
「いろいろあるだろう。スナック感覚で食べられるパンとかな。」
ムギはパンが好きだから、なぜローがパンを嫌うのか理由がわからなかったけれど、なるほど、それはいい案だ。
パンの種類は膨大で、ドイツパンのプレッツェルみたいにパンらしくないパンも存在する。
パンの定義とは、小麦粉を捏ねて発酵させたものらしい。
でも、中にはナンのような無発酵パンもあるし、パンの世界は奥が深い。
ちなみにプレッツェルも、イースト菌を使った立派なパンである。
「店長、ありがとうございます! ふふ、次こそは勝つ……!」
「元気が出たなら構わねぇが、お前はいったいなにがしてぇんだ。」
にやにや笑みを浮かべるムギの顔は闘志に燃えていて、すでに本来の目的を忘れかけているようだった。