第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
それからというもの、ムギはローにパンを勧めまくった。
ピザパン、チーズブール、あんパン、明太子フランス、チョリソードッグ。
ありとあらゆるパンを勧めてみても、ローは頑として試食を口にしない。
ここまで断られ続けるとムギも意地になってしまい、躍起になってパン選びに熱が入る。
たぶん、ローのパン嫌いの噂は本当なのだろう。
「店長、パンが嫌いな人でも食べたくなるようなパン、なにかないですかねぇ!?」
閉店後、惨敗したムギはゼフに向かって二度目の相談をした。
「あァ? お前、何日か前も同じようなことを言ってやがったな……。いい加減にしておけよ。」
「だって、悔しいんですもん!」
常に厨房でパンを作っているゼフは、意外と店内の状況を把握している。
だから当然、ムギがローに試食を勧めているのも知っているわけで。
「無理に食わしたってしょうがねぇんだ。お客にはお客の好きなもんを買ってもらえ。」
「そうですけど、食わず嫌いかもしれないじゃないですか。」
「だとしても、余計なお世話だろうよ。無理やり食わして気分を悪くしたら、お前、責任取れんのか?」
「……。」
ゼフの言い分は正しい。
ムギはローの友人ですらないのだから、彼の嗜好にまで足を踏み入れる立場じゃないのだ。
そもそも、なぜムギはローにパンを食べさせたいのだろう。
関係がない人だ。
それもローは、頑張って告白をしてきた女の子に冷たい言葉を吐くような冷徹人間。
パンの良さを知らなくたって、ムギの生活に影響はない。
ただムギは、ローがバラティエのパンを食べて、今まで不味いと思っていたものを美味しいと感じる瞬間を見てみたい……そんなふうに思ってしまう。
なぜそう思うのかは、自分でもよくわからない。