第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
気まぐれかと思っていたローの来店は、どうやらそうでもなかったらしい。
結果から言うと、次の日からもローはバラティエを訪れた。
土曜日はさすがに来なくて、日曜日は店の定休日。
週初めの月曜日はもう来ないかな?とも思ったけれど、変わらずローはやってきた。
そして火曜日の朝、今日で通算五日目、丸々一週間が経過した。
いったいなにがそんなにお気に召したのか、毎朝飽きもせずにやってきては、たった一杯のコーヒーを注文していく。
さすがに一週間が経過すると、ムギもローの存在に慣れてきた。
それどころか、最近ではパン嫌いなローにパンを食べさせる方法はないのかと勝手に画策すらしている。
「ねぇ、店長。パンが嫌いな人でも食べられるパンって、なんだと思います?」
「なんだそりゃ。なぞなぞか?」
「ううん、真面目な話。」
「嫌いなヤツには、無理して食わせる必要もねぇだろうが。」
それを言っちゃあ元も子もない。
でも、ムギは悔しいのだ。
ローは毎日のようにバラティエを訪れるようになったが、主役であるパンには見向きもしない。
愛するパンたちの良さを知ってもらうために、どうにかきっかけを作れないのか。
本人からすれば大きなお世話でしかないそれを、ここのところ真剣に悩んでいる。
だって、パンを嫌いなまま生きるなんて可哀想。
なにが原因でパンを嫌いになったのかは知らないけれど、本当に美味しいパンを食べたことがないだけではないのか。
「知らん、放っておけ。パンを食わなくても生きていけるぞ。」
「それ、パン屋さんが言います?」
「いいから働け、時給下げるぞ。」
「ごめんなさい、働きます。お給料減らすのだけは勘弁してください。パンを食べるのと給与明細見るのだけがわたしの楽しみなんです。お願いします、わたしから楽しみを奪わないで。」
「……他に趣味を持て。」
ゼフからものすごく残念なものを見るような視線を向けられたムギは、いつにもましてシャカシャカ動いた。
今月の給料しだいでは、過去最高貯金額を更新するかもしれないのだ。
どうしよう、今から胸がドキドキする。