第7章 トラ男とパン女の攻防戦
話し合いの場をローの家ではなく、ムギの家にしたのは良い提案だったと思っている。
ローの家にすると、彼は絶対に帰りも送ると言うだろうし、それはとても気まずい。
ムギは今日でローとの交際を終わりにするつもりでいて、場合によってはローとの仲も悪くなるかもしれない。
できれば以前のように良好な友人へと戻りたいが、それはムギのワガママだろう。
「どうぞ。」
ローを家に上げるのは、これで二度目。
一度目は偶然、二度目は故意的に。
ある意味お互い様な招き合いは、是非ともこれで最後にしたい。
残り物のパンをテーブルに置き、ソファーに座るよう勧めた。
キッチンでホットコーヒーを二人分淹れて戻ってきたムギは、できるだけローと距離を取ってソファーに座った。
「お話って、なんですか?」
待つのは苦手だ。
早々に本題に触れると、コーヒーを啜ったローがじっとムギを見つめた。
ローに見つめられると落ち着かなくなる。
すっと視線を外したムギは、誤魔化すように髪の毛先を指で弄った。
「今朝の話の続きだ。」
だいたい予想がついていた話題に、ムギの心はずしりと沈む。
「お前、あんなふうに逃げるのはやめろ。」
「誰のせいだと思ってるんですか?」
「場所を弁えなかったのは、悪かったと言っただろう。」
悪かったと思うのは、場所を弁えなかったことだけか。
キスをしたこと自体は悪いと思っていないのか。
「ただ、ああやって逃げられると追いたくなる。何度もお前の学校に行ってやろうかと思った。」
「え、ちょっと……、やめてくださいね?」
「そう言うと思ったから、我慢したんだろうが。わかったらお前、今度から逃げるなよ。」
「わ、わかりました。気をつけます……って、なんでわたしが悪いみたいになってるんですか!」
うっかりローのペースに乗せられそうになってしまい、ムギは首を左右に振って我に返った。
違う違う、今夜こそこの関係を解消するのだ。