第7章 トラ男とパン女の攻防戦
勝手な考えをぶちまけたプリンは、言いたいことを言えてすっきりしたのか、ムギの退勤時間が迫る少し前に帰っていった。
しかし、すっきりしたのは彼女だけであって、ムギの胸には息苦しいほどのもやもやが残る。
「じゃ、応援してるから」と別れ際に告げていったプリンを、今は恨めしく思っている。
なぜなら、ムギはこれからローと直面しなくてはならないのだ。
「さっきの女、誰だ?」
店の外で様子を見ていたのだろう、仕事を終えたムギに尋ねてきたローは、本当にプリンの顔を覚えていなかったようだ。
「プリン先輩ですよ。ほら、合コンでローの隣に座っていたでしょ?」
「……そうだったか?」
「失礼な人ですね、あんなに可愛い子を忘れるなんて。」
「ああいう女は、みんな同じ顔に見える。」
そんなわけない……と言おうとしたけれど、ムギも最近のアイドルグループのメンバーが全員同じ顔に見えてしまうので、あえてそれ以上は突っ込まなかった。
「で、話ってなんです?」
同じような質問をプリンにもしたなと考えていたら、これまた同じような答えを返された。
「立ち話でするような内容じゃねェ。少し顔を貸せ。」
「ああ、そうですか。でも、お店はもう閉まっちゃったしな……。」
「俺の家に来い。」
「え……。」
ローの家に呼ばれるのはこれで三度目。
一度目は偶然、二度目は故意的に。
二度目の訪問時、もう呼ばれることなんかないだろうなと思っていたのに、こんなにも早く三度目が訪れるとは。
でも、できることなら行きたくはない。
ローの部屋は彼のテリトリーだから、ムギは落ち着かなくなるし、なんだかローの都合がいいように話を進められてしまう気がした。
だったら、いっそのこと……。
「何度もお邪魔したくはないので、わたしの家でもいいですか?」
「お前の家?」
「はい。なにか問題でも?」
「いや……。お前がいいのなら、それでいい。」
ムギのテリトリーで冷静に話をしよう。
そう判断して気軽に提案したことを、ムギはのちに後悔する。