第7章 トラ男とパン女の攻防戦
よし、と気合いを入れたムギはローに向き直った。
こういうのは、勢いが大事。
「もう、こういうのやめません?」
「……どういう意味だ。」
「だから、元の友達に戻りましょうよ。」
「断る。別れない。」
おいおいおい。
せっかく人が過去の非道を水に流してやろうと思ったのに、なぜそうも頑なに拒絶するのか。
「ローが考えてること、さっぱりわかりません。厚意に甘えちゃったのはわたしも悪かったですけど、責任を取ってもらわなくても大丈夫です。」
「責任、だと?」
「だってそうでしょ? ローは噂が流れたことに対して責任を取ろうとしてくれるけど、噂なんかそのうち消えるって言ったのは、ローの方じゃないですか。」
人の噂も365日……じゃなくて、75日。
あと二ヶ月もすれば自然に消えるものを、わざわざ責任を取る必要はない。
そう説明したら、虚を突かれたようにぽかんとされた。
「は……?」
「え?」
なんでそんな反応をされるのかわからなくて、ムギも首を傾げる。
「お前、そんなふうに思っていたのか?」
「と、言いますと?」
だから、主語が足りないんだよ、主語が。
「俺は一度たりとも、責任を取るために別れないとは言ってねェ。」
「ん? まあ、そうですね……。」
待てよ、と考えた。
このパターンは、どこかで覚えがある。
(あ、そうだ。付き合うフリなんかしてないって否定された時と同じ……。)
ということは、またしてもムギとローに認識のズレが生じているということで。
「えぇっと、わたしの言ってること、合ってますよね?」
「違うに決まってんだろ。なんで俺が、好きでもない女と責任のために付き合わなきゃならねェ。」
「世話を焼きたい性癖なんじゃ?」
「ふざけんな、バカ。人を変態みたいに言うな。」
変態とまでは言っていないが、近しい性癖を持っていると思っていた。
「え、じゃ、なんで?」
「……恋愛にそこまで臆病だと、ある意味病気だな。」
なんか勝手に病人扱いされたけれど、それを言うならローだって言葉足りない病じゃないのか。
文句を言おうと口を開いてみたものの、次の瞬間、不満も疑問も、すべてがすっ飛んでいった。
「お前が好きだからに決まってんだろう。」