第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギとプリンがそれぞれパンを食べ終えたあと、ようやく本題を切り出した。
「あのね、ローくんのことなんだけど……。」
「……はい。」
ローの名前を聞くだけで、ムギの心臓がどきりと不整脈を起こした。
「あんた、正直にどう思ってんの?」
「質問の意味がよくわからないんですけど。」
プリンの言い方だと、まるでムギが嘘をついているように聞こえる。
「だから、本当にローくんと別れたいって思ってるの?」
「思ってますよ。」
「なんで?」
「なんでって、付き合う必要なんかないじゃないですか。」
そもそも、ムギはローに付き合うフリをしてもらうのだって反対だったのだ。
ムギはなにも返せないのに、ローを利用するようで嫌だった。
すべてが済んだ今、ようやく偽装交際を解消し、ローを自由にできると思ったのに。
それを説明したら、重たいため息を吐いたプリンがこめかみを揉んだ。
「重症ね、あんた。ボニーは自分で気づかせろって言うけど、ムリムリ。私、あんたとローくんを応援するって約束しちゃったし。」
「応援しなくていいんですけど。」
「黙りなさい! ローくんが別れないって拒否する意味が本当にわからないわけ?」
「わかりませんよ。だって、ローはいつも予想外な行動ばっかりするんですもん。」
パンが嫌いなくせにパン屋に通ったり、突然連絡先を聞いてきたり、看病したり、動物園に連れていかれたり。
付き合うフリも、デートも、キスも、なにもかもがムギの想像の範疇を高々と超えてくる。
だからムギは、ローが少し怖い。
「でも、嫌じゃないんでしょ?」
「……いつも強引なんですよ。」
曖昧に濁し、二個目のパンに手を伸ばした。
嫌じゃないと答えなかったのは、踏み入ってほしくない部分にプリンが触れようとしていると、無意識に感じたからかもしれない。
今だってほら、触れてほしくないところにプリンが切り込んでくる。
「強引にされても嫌じゃない。それってさ、ローくんが好きってことじゃないの?」
その瞬間、手にしていたパンがテーブルの上にぼとりと落ちる。