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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第7章 トラ男とパン女の攻防戦




19時半、ムギが仕事を終える30分前に珍しい客がやってきた。

「あれ、プリン先輩?」

バラティエの閉店間際にやってきたのは、妙にめかし込んだプリンだった。
そわそわと店内を見回しているところを見ると、お目当てはサンジだろうか。

「サンジさんなら今日はお休みですよ。」

「べ、別に、そんなつもりで来たんじゃないわよ……ッ。あんたに用事があったの!」

ムギに用事というわりには、サンジがいなくて残念そうだ。
気合いが入ったフルメイクは、誰のためにした努力なのか。

「で、わたしに用事って?」

「立ち話じゃちょっと……。顔貸しなさいよ。」

「いやいや、わたしまだ仕事中です。」

終わるまでは30分もあるし、かといって待ってもらっていても、話がしたいと言っていたローがやってくる気がする。

「なんだ、友達か?」

「あ、店長。すみません、話し込んじゃって。」

職務怠慢に厳しいゼフに見咎められ、慌てて仕事に戻ろうとしたら、低く渋い声で「待て」と引き止められた。

「せっかく来てくれたんだろ、適当に休憩しろ。」

「休憩って、あとちょっとで閉店ですよ?」

「それがどうした。俺の言うことに文句でもあんのか?」

「ありません! 店長、最高に格好いいです!」

さすがはムギ至上ナンバー1のイケメン。
手放しに褒めちぎったら、なぜか「調子に乗んな!」と怒られたが、照れ隠しだろうか。

閉店前にも関わらず、太っ腹なゼフに売れ残りそうなパンを貰い、ついでにコーヒーもサービスしてもらった。
一応は勤務中なのでエプロンも外さずにイートインコーナーへ腰を下ろす。

「それで、わざわざどうしたんですか?」

「パンを頬張りながら聞いてんじゃないわよ……。」

「プリン先輩もどうぞ? あ、そのアプリコットデニッシュ、サンジさんが焼いたやつですよ。」

「え……ッ、それを早く言ってよね!」

いそいそとデニッシュに齧りついたプリンの頬が染まる。
恋する乙女の表情は、コンポートよりも甘い。



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