第7章 トラ男とパン女の攻防戦
申し訳ない程度の砂糖と塩を持ち、運んできたものを所定の場所に置いたところで、不意にギンが話し掛けてきた。
「ムギさん。もしかして、迷惑な野郎につきまとわれて困ってますか?」
「え?」
「よければ俺が、始末しましょうか。」
ギンの目は据わっていて、どこかそっちの道の輩のようだ。
それはさておき、ギンの言うつきまといなら、ごく最近解決したばかりだ。
でも、ギンはその情報を誰から聞いたのだろう。
まさか、解決したと思っていたアブサロムが、またしても店に連絡してきたのだろうか。
「ギンさん、どこからそんな話を聞いたんですか?」
「サンジさんが言ってたんで。うちにコーヒーを飲みに来る男に気をつけろって。」
「は、え? あぁ、そっちか……!」
てっきりアブサロムのことを言っていると思っていたのに、ギンが言っているのは間違いなくローである。
(そっか、つきまとわれてるって思われちゃうのか。)
実は今朝、サンジにローと付き合っているのかと尋ねられた。
その質問に敏感になっていたムギは力いっぱい否定をしたため、彼の目にはローがつきまとっているように見えたのだろう。
「違いますよ、あの人はその……友達です。」
「友達? そうは見えませんでしたけど。」
「……ちなみに、どう見えました?」
「ムギさんはともかく、あの客は確実にムギさんの男気取りでしたね。俺にも牽制の視線を送ってきたんで。」
「けんせいの視線?」
なんだそりゃ……と首を傾げたら、ギンがわかりやすく言い直してくれた。
「俺の女に手を出すんじゃねぇぞ、って視線で俺のことを威嚇してましたね。」
「えぇ!?」
さすがに勘違いだと思いたい。
だって、ローが敵視していたのはアブサロムだけのはずだから。
「ムギさんが困ってないならいいんですけど、なにかあったら相談してください。」
「あ、ありがとうございます。」
“なにか”は確実に起きているのだが、ムギは誰かにローをどうにかしてもらおうとは思わなかった。
アブサロムの時はあれほど困ってしかたがなかったのに、どうしてだろう。
ローとアブサロムの違いは、触れられたら嫌か嫌じゃないか。
その違いがどれほど重要なのか、恋愛に蓋をしたムギは気づいていなかった。