第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギは怒っている。
昨夜のアレは、思い出すだけで身体が燃えそうなほど恥ずかしい。
しかし、ムギは考える。
ローはなぜ、ムギにあんなことをして、そして別れたがらないのか。
一晩考えた結果、ムギはとある答えにたどり着く。
きっと、例の性癖だ。
世話焼きのローは、他人の世話を焼きたがる性癖を持っていて、今回もマニアックな性癖全開でムギの面倒を見ようとしているのだろう。
ムギとローの噂は想像以上に広まっていて、ムギが通うスペード高校ではもはや、二人の関係を知らぬ人はいないほど。
責任を取ろうとしてくれる真摯な行動は嬉しい。
が、しかし、好きでもないのに恋人にしてもらっても、少しも嬉しくない。
好きでもない女に対してローがあんな行動を取ったのかと思ったら、はらわたが煮えくり返るほど腹立たしかった。
だからムギは、ローと元の関係に戻りたい。
以前のように、ただの友達に戻りたい。
バラティエでコーヒーを飲む彼を眺め、時折話をするくらいで、ムギは十分なのだ。
ムギのイライラは、学校へ行っても治まる気配がなく、不思議に思ったボニーがおもしろそうに頬をつついてくる。
「ちょっと、やめてよボニー。」
「だって、ムギのほっぺがつついてくれって言ってんだもん。」
「言ってないよ。もう、つつくのやめてってば。」
無意識の膨れっ面に遠慮なく指を沈めるボニーを煩わしく振り払いながら、ムギは乱暴にノートを閉じて次の授業の準備を続ける。
「なんだよ、そんなにぷりぷりして。またトラなんとか先輩となにかあったんか?」
「……。」
「図星か。なんだ、またチューでもされた?」
「……ッ」
「図星か。わかりやすくて可愛いなぁ、ムギ。」
「うるさいなッ!」
癇癪を起こす子供みたいにボニーを叩くフリをしたが、軽く手首を掴まれて躱されてしまう。
リーチの差が悔しい。
「よし、次の授業サボって語ろうぜ。」
「やだ。そんな理由でサボれません。」
ただでさえ成績が悪いのだ、不真面目さが加わったら進級が危うくなる。
「んじゃ、昼休みまで我慢か。プリンにもメールしてやろっと。」
ちょっと待て。
いつの間に呼び捨てるほど仲良くなった。