第6章 パン好き女子のご家庭事情
ムギの叔父の家は、高速道路を利用すればすぐに到着する距離に位置していた。
裕福な家だとは聞いていたが、その家はとても趣味が悪く、探し当てるまで時間は掛からなかった。
しかし、問題なのはムギ自身。
メールが届いてから何度も連絡をしているが、いっこうに既読にならず、電話を掛けても出やしない。
鳴り続けるコール音を耳にしていると、こうしている間にも危険な目に遭っているのではないかと想像が膨らみ、気が気じゃなくなる。
バイクから降り、重たそうな鉄門の前で何度目とも知れぬ電話を掛けた。
すると、急く思いが通じたのか、コール音が途切れてようやく恋人の声が聞こえる。
『もしも――』
「ムギ、てめェ、やっと出やがったな!?」
どこからか敷地の中に入れないかと走り回ったせいで、ローの息は荒い。
しかし、電話の向こうの彼女は呑気にも状況がわからないようだ。
『どうかしたんですか?』
「どうか、だと? この野郎……ッ、おい、今どこにいる!」
あまりの呑気さに、ムギはこの家にいないのではないかと考えたが、ローの願いはあっさりと打ち破られる。
『どこって、叔父さんの家ですよ。今から帰るところなんです。……なんか苦しそうですね、具合でも悪いんですか?』
誰のせいで焦り、町中を駆け回っていると思っているのか。
彼女の危機感のなさは、ローの苛立ちを余計に煽る。
「ふざけんな! お前、そこはストーカー野郎の家だろうがッ!」
『大丈夫ですよ。アブ兄は、きっともう…――』
不自然にムギの声が途絶える。
まさか……と嫌な予感がローを苛み、答え合わせをするように、彼女が電話の向こうで呟いた。
『……アブ兄。』