第6章 パン好き女子のご家庭事情
一拍ほど間を置いてから、サンジが大声で否定をしてきた。
「はぁあ!? ありえねぇし! ムギちゃん、そんなこと一言も言ってなかったぞ!」
「お前に話す必要なんかないと判断したんだろ。」
「ふざけんなよ、俺とムギちゃんの仲も知らねぇくせに!」
「仲? いつも相手にされてねェだろうが。」
「なんだと、この野郎!」
話が脱線していると気づいていたが、ムギがサンジに好意を寄せていると思うだけで、どうしても冷静になれない。
緊急時だというのに、嫉妬を隠せない自分が嫌になる。
「とにかく、早く住所を教えろ!」
「断る。客じゃねぇならさっさと出ていけ!」
言葉選びを間違えたせいで住所を聞き出せず、ならば拳で語るしかないのかと腹をくくりかけた時、店の奥からローたちより数倍大きな声で喝が飛んだ。
「うるせぇぞ、てめぇらッ! まだ営業中だッ!!」
「ジジイ……!」
今日は休みを取っていたはずのゼフは居住場所である二階から下りてきたのだろう、いつものコック姿ではなく私服を身に纏っている。
「すみません、揉めてるようだったので、俺が呼びました。」
「ギン、てめぇ……余計なことを。」
「余計だァ? 仕事も忘れて喧嘩買いやがって! 小僧、お前も営業妨害をするんじゃねぇよ!」
ゼフがローに喋り掛けるのは、これが初めてだ。
緊急事態とはいえゼフの指摘は正しく、態度が悪かった点は反省する。
「悪かった。だが、引く気はねェ。あいつの叔父の住所を…――」
「持ってけ。」
ローの言葉を遮って、ゼフが折り畳んだ紙を一枚投げて寄越した。
咄嗟にそれを受け取り、確認してみると、そこにはムギの叔父と思われる人物の住所が書いてあった。
「契約書の一部のコピーだ、必要なんだろ?」
「おい、ジジイ! そりゃ情報漏洩ってやつだろ!」
「うるせぇ! 俺がいいと言ってんだ、責任は俺が取る!」
ごねるサンジを一喝して黙らせ、ゼフは顎でしゃくってローに「行け」と告げてくる。
「……恩に着る。」
「着るな、そんなもん。ムギを泣かせるなよ、小僧。」
「泣かせるかよ。」
今のところ、泣かされているのはローの方だ……とは言えずに、握りしめた住所にバイクを走らせた。