第6章 パン好き女子のご家庭事情
モリアの男気と親心によって、ムギの悩みはあっという間に解決した。
ムギは負担になってしまう税金を自らのお金で払いたいと申し出たけれど、それはモリアが許さなかった。
「そんな気が遣えるくらいならなァ、もうちょい顔を出せってんだ! アブサロムのやつには、二度とお前に触れないよう言いつけてある。俺との誓いを破るほど、あいつも腐っちゃいねぇ。」
「確かに、触れてはないですけど……。」
「ん、なんか言ったか?」
「いえ、なにも。」
触れるどころか、アブサロムは喋り掛けてもこない。
ペローナと同じくモリアを慕っている彼は、誓いを忠実に守っているのだろう。
「……また今度、改めて遊びにきます。」
「おう。そん時はお前が働いてるパン屋のパンでも持ってこい。」
「 え……、わたしがパン屋で働いてるの、知ってたんですか?」
「ああ、ずっと前にゼフとかいうオーナーから電話があった。うちで大事に預かるとかってな。お前をやったつもりはねぇが、なかなか筋が通った男じゃねぇか、キシシシ。」
ゼフがそんなふうにモリアへ連絡していたなんて、今日まで知らなかった。
ムギはいつも自分のことにしか目が向いていなくて、大切な部分に気がつけない。
「ありがとう、叔父さん。わたし、頑張って夢中になれるなにかを見つけるから。」
「ま、適当に頑張んな。……ふわぁ、俺は眠い。ペローナ、ムギを外まで送ってやれ。」
「はい、モリア様!」
話が終わった途端、自堕落なモリアはいそいそと背を向けて眠り始め、ムギはペローナと共に部屋を出て、玄関へと歩き出した。
廊下を歩みながら、ペローナはぽつりと呟いた。
「モリア様はああ言ったけど、あいつのことは許すなよ。私は絶対許さない。」
「ありがと。でも、ペローナも許してよ。たった二人だけの兄妹でしょ。」
家族は仲が良い方がいい。
それはとても当たり前のことに思えたけれど、世間には誤解やすれ違いを抱えた家族が多くいるから、せめてムギが知る家族だけは、幸せな家庭であってほしいと思った。