第6章 パン好き女子のご家庭事情
「いや、違います。」
即答で否定してしまったムギは、たぶん可愛くない姪だ。
ムギの背後でペローナが「違うのかよ!」叫ぶ。
どうやら彼女も、ムギがそういう相談をしにきたのだと思っていたようだ。
「アブサロムのことなら気にしなくていいんだぞ。あいつも反省したみてぇだし、顔を合わせづらいなら、離れを一棟使ってもいい。」
「叔父さん、わたしひとり生活するのに、離れを一棟なんて広すぎるし、管理もできないよ。」
「キシシシ、心配するな。面倒くせぇことは全部、使用人にやらせりゃァいい!」
それはそれでムダ金が過ぎる。
使用人の日当がいくらなのかを想像するだけで、倒れそうになってしまう。
第一、モリアの目にはアブサロムが改心したと映っているようだが、真実は違う。
彼は己の子に対しては凄まじく親バカなのだ。
「そうじゃなくて、わたしがしたかったお話っていうのは、そのぅ……、扶養の税金の話で……!」
「税金だぁ?」
自分の学のなさを曝すようで情けないが、ムギはこれまでの経緯をありのままに話した。
学業ではなくバイトに精を出すという、学生にあるまじき所業を耳にして、モリアは呆れながらも「そんなことか」と嘆息した。
「金を稼ぎたけりゃ、好きにしたらいい。税金? そんなもんは気にすんな。働きすぎた金なんて、この俺にとっちゃ微々たるもんよ。」
「お、叔父さん……。」
「なんだムギ、お前、こんなことくらいで悩んでたのか。」
「そりゃ、悩むよ。」
ただでさえ金も迷惑も掛かっているのだ、気にしない方がおかしい。
「ムギ、前に俺は言っただろ。シケた面をすんじゃねぇ。お前が学校でもバイトでも、男でもなんでもいい。なにかやりがいのあるもんを見つけて、のめり込みてぇと思ったんなら、納得いくまでやってみせろよ。金だの迷惑だのと気にすんな。」
モリアにとって、ムギは面倒事のひとつであるはずなのに、こうして応援をしてくれるのは、彼がムギを家族と認めている証拠。
思いがけずじんと感動して、鼻の奥が痛くなった。
「モリア様、かっこいい……。」
ムギの気持ちを代弁するように、後ろでペローナが呟く。
なぜこうも、ムギの周りには素敵なオジサマが多いのだろう。