第6章 パン好き女子のご家庭事情
どうやら神様は、ムギを急かしているらしい。
夕方に働き出して僅か二時間後、午後6時を少し回った頃に、サンジに声を掛けられた。
「ムギちゃん、もしあれなら、そろそろ上がっても大丈夫だよ。」
「え? さすがに早すぎませんか?」
「ギンのやつが今日一日でだいぶ仕事を覚えたからさ、そろそろ二人で回してみてもいいかと思うんだ。」
仕事量を考えると、三人で働いた方が効率がいい。
しかし、バラティエでは二人で回せてこそ一人前という考えがあるので、一種の試練なのかもしれない。
(初日なのに、厳しいな。でも、それがサンジさんたちの指導方針なのかもだし。)
無理に働くと言ったら、サンジの指導に水を差してしまうと考えたムギは、今回は提案に甘えようと決める。
「もちろん、ムギちゃんが俺といたいってなら、無理には――」
「それじゃ、お言葉に甘えて上がらせてもらいますね。ギンさん、頑張って!」
「うす、ありがとうございます。」
なにかを言いかけたサンジを遮り、エプロンの紐を解いたムギは、そのまま更衣室に向かう。
制服に着替えながら思い出されるのは、ペローナからの電話。
(……早く叔父さんのところに行けって、神様が言ってるのかも。)
バイトが早く終わった以上、モリアに会いに行かないわけにもいかず、ここらへんが潮時だと覚悟を決める。
迷惑千万な自衛にローを付き合わせるのはやめにして、そろそろ答えを出さなければ。
アブサロムは、もうムギには関わらない。
そう結論づけるためにも、ムギはモリア宅に向かわなければならない。
ムギがモリア宅を訪ねた時、外出中のアブサロムが帰ってこなければ、彼の外出理由がムギとは関係ないと証明され、結果的に安心できる。
逆に、もしもアブサロムが接触してくるようならば、いい加減に彼と向き合わなくちゃ。
なんにしても、このままずるずる引き延ばしてローにもモリアにも迷惑を掛けるのは、あまりに愚かすぎる。
「……よし、行くか。」
自分を奮い立たせるために呟き、ムギは自宅ではなく駅へ向かった。