第6章 パン好き女子のご家庭事情
「どうしたんですか?」
おかしなことは聞いていないはずなのに、不自然に黙ったローに首を傾げた。
そして、彼はプレゼントとはまったく関係のない話を口にした。
「お前、あいつが好きなのか?」
「は……?」
あいつとは、どいつのことだ。
以前にも思ったけれど、ローは主語が足りない。
「惚けるな、シャチたちに言っていただろ。あの男が好きだと。」
「ああ、あの話……。」
ようやくゼフの話をしているのだと合点がつく。
どうやら彼は、部屋の外で例の話を聞いていたらしい。
「大好きですけど、それがなにか?」
「大好き、だと?」
正直に答えたら、ローの顔が険しく歪む。
他人にはわからないかもしれないが、ゼフは本当に優しく男前なのだ。
「いつもはあんな態度ですけど、仲間想いな人なんです。大事なことは口に出さない人だから、ちょっと伝わりにくいだけで…――」
「やめろ、もういい。聞きたくねェ。」
「え……、はい。」
自分から話を振ってきたくせに、なんて横暴な人なんだ。
興味がないのなら、最初から聞かなければいいのに。
「らしくねェ質問だった。お前が誰を好きでも、関係ねェ。」
「そりゃ、まあ。」
「どのみち、逃がしやしねェんだ。」
「は……?」
また主語がない。
ムギはあまり察しがいいタイプではないのだから、主語はしっかり口にしてもらいたい。
「……お前、誕生祝いになにが欲しいかと聞いたな?」
「聞きましたけど……。」
今日はよくよく話が飛ぶ。
けれども、それは一番知りたかった話題なので、話の腰を折るような茶々は入れないでおく。
「なんでもいいのか?」
「まあ、いいですよ。わたしが用意できる範囲なら。」
ものすごく高価なものや、壮大なスケールのものは無理だけど、ローには世話になっているから、できる限りは頑張りたい。
「そうか。なら、貰う。」
ヘルメットをバイクに引っ掛け、伸びてきた腕がムギの後頭部に回る。
なんだ?と思った瞬間には、普段なら身長差によって数十cmは離れているはずのローの顔が間近に迫った。
あ、ぶつかる。
反射的に首を後ろに反らしたが、後頭部を掴んだ手のひらが許さない。
息を呑み、瞬きをひとつした刹那、唇に柔らかく温かなものが触れた。