第6章 パン好き女子のご家庭事情
1メートル弱はありそうなレッサーパンダも、ローに抱えられると小さく見える。
ふわふわの毛並みをひと撫でし、それから愛らしい鼻をぎゅと摘まんだ。
「あ、いじめてる。大事にしてくれるんじゃなかったんですか?」
「してんだろうが。見てわからねェのか?」
「いじめてるようにしか見えませんけど。」
鼻を摘ままれたレッサーパンダは、表情が歪んでおもしろい顔になってしまっている。
「……これは、他のやつに尻尾を振った罰だ。」
「え、そんな機能ついてないですよ? 大丈夫ですか?」
動物園で購入したレッサーパンダは、綿が詰まった純正なぬいぐるみで、電池や機械は組み込まれていない。
ゆえに、ローが言うような尻尾を振る行為はできないのだ。
例えレッサーパンダに尻尾を振る機能がついていたとして、それがなんだというのか。
他の人に尻尾を振られるのが嫌なくらい溺愛しているのだとしたら、ちょっとローを見る目が変わってしまう。
案外、寂しい人なのかもしれない。
「……。」
なにを思ったのか、レッサーパンダから手を離したローが、今度はムギの鼻をむぎゅっと摘まんだ。
「いひゃいッ、なにするんですか!」
「無性に腹が立った。」
「知りませんよ、そんなの!」
まさか、心を読む能力でもあるのだろうか。
怖い。
元からあまり高くない鼻を押さえながらじわりと距離を取ったら、大きな音で舌打ちをされた。
だから、怖いって。
「逃げられると思うなよ、ムギ。」
「……なんの話ですか?」
まさか、この低い鼻をまだ狙っているのだろうか。
「まあまあ、キャプテン。そんなに怖い顔をしないでさ。今日はキャプテンの誕生日パーティーなんだから、もっと楽しくいこうよ。」
ベポに宥められたローはふんと鼻を鳴らし、レッサーパンダのぬいぐるみをベッドに放り投げた。
大事にしてくれるはずでは……?