第6章 パン好き女子のご家庭事情
「でさ、どうやって付き合うようになったんスか?」
ローがいない間を見計らってか、三人はこそこそムギたちの馴れ初めを聞きたがった。
これがまた、辛い辛い。
「えっと、成り行き? ですかね。」
「それは嘘だな。成り行きで付き合ったように見えねぇもん。」
「う……。」
ムギの稚拙な嘘では、十年来の親友たちの目を誤魔化せない。
だからムギは逃げに徹する。
「実は、わたしにもよくわからなくて。気がついたらそうなっていたというか、そうさせられたというか……。」
肝心な部分を濁しながら、事実を伝える。
気がついたらそうなっていたというのは本当にそうで、あの時のローはやや強引だった。
「はぁ~、なるほど。キャプテンったら、押しに押しまくったんスね。」
「そうなの? それでムギちゃんは納得してる?」
「あ、う、はい。」
せめてこの返事だけは、はっきりとしておくべきだった。
言い淀んでしまったから、彼らの誤解と心配を買ってしまう。
「まさかムギちゃん、他に好きな人がいたんじゃ……。」
「えぇッ!?」
ムギが驚いたのは、まさかそんな質問をされるとは思わなかったからだ。
しかし、大げさなリアクションに彼らの誤解はますます深まる。
「その反応、やっぱりそうなんだ……。」
「いやいや、そんな人いませんよ!」
「本当かよ。ちょっとでもいいと思う人とかいなかった?」
シャチの質問に、なんとなくゼフの顔が浮かんだ。
これまでの人生において、ムギの胸をときめかせたのはゼフだけだ。
もちろん、恋愛感情ではないのだが。
「あ、今、誰か思い浮かべただろ!」
「え……、や、まあ……。でも、憧れというか、尊敬というか。」
「やっぱりいるんだ! どんな人!?」
何度も言うが、ムギはゼフに恋愛感情を持っていない。
あと50年早く生まれていれば、違ったかもしれないけれど。
「本当にそういうんじゃないですよ?」
「いいからいいから、教えてよ。」
ゼフの人となりを求められ、しかたがなく敬愛する店長について語ることにした。
ドアの外に、ローが戻ってきているとは知らずに。