第6章 パン好き女子のご家庭事情
パンとケーキの境目は、実はけっこう曖昧ではないかとムギは思う。
スポンジと蒸しパン、パイとデニッシュ。
調理法や発酵の有無に違いはあっても、互いに代用が利くくらい仲間なのではないか。
若者に大人気なパンケーキなんか、名称からしてパンかケーキかもわからない。
つまり、ケーキが食べられるなら、パンも食べられるんじゃないの?と言いたいわけだ。
「ケーキ、食べるんですね。」
「食っちゃ悪ィのか?」
「悪くないですけどー……。」
悪くないが、パンがケーキに負けた気がする。
甘い小麦粉製品を食べるなら、是非とも菓子パンを勧めたい。
「あー……、甘いの食べたら塩っぱいのが食べたくなってきた。キャプテ~ン、なんかポテチとかない?」
「勝手に上がりこんでおいて、ずいぶんな要望だな、おい。」
寛いだ様子で図々しく菓子を要求するシャチに呆れつつ、ローが腰を上げた。
なんやかんや言っても、彼は優しい男なのだ。
部屋から出て行くローを見送って、ふと視線を戻すと、三人がムギをじっと凝視していた。
「な、なんですか?」
「あぁ、いや、ごめん。キャプテンが家に女の子連れて来るなんて初めてだったから、その……本気なんだなってさ。」
「シャチ、他の子と比べんのは失礼ッスよ。」
「あ……ッ、そんなつもりじゃなくて!」
慌てて取り繕おうとする彼らに、ムギは苦笑を返した。
まさかとは思うが、三人は付き合っているフリだと知らないのだろうか。
真実がどこからか漏れ、アブサロムに嘘が伝わるのを危ぶんでいるのかもしれないが、それは気にしすぎだと思う。
(ていうか、わたしはボニーたちにフリだって言っちゃったし。)
当事者であるムギの方が危機感に欠けるとあっては、立つ瀬がなくなる。
「でも、キャプテンに大切な子ができて、おれも嬉しいよ。」
「う、うん……。」
つい頷いてしまったが、本当は否定しなければならなかった。
でないと、ムギがローの彼女だとますます誤解されてしまう。
(あとで誤解をといてもらえるように、ローにお願いしよ。)
心から喜ぶ彼らに、ムギから「違う」と言うのは気が引けて、その場しのぎの嘘をついてしまった。
なけなしの良心が痛い。