第6章 パン好き女子のご家庭事情
シャチたちが持ってきた苺のショートケーキを五等分に切り分け、パーティーが始まった。
パーティーと言っても、ケーキを食べながら三人がプレゼントを渡すだけで、彼らにとっては普段ローの部屋に遊びに来るのと同じ感覚だ。
「キャプテン、誕生日おめでとう。俺からはサングラス~! このモデル、俺も色違いで持ってんだぜ。今度一緒につけて遊ぼうな!」
「……まあ、礼は言っておく。」
「俺は電動髭剃りッス。この前、刃が欠けたって言ってたから。」
「ああ、助かる。」
サングラスに髭剃り。
どちらもムギでは思いつかないプレゼントの内容だ。
そしてベポはというと、満面の笑みを浮かべて小さな包みをローに渡す。
「おれはね、これにしたよ。キャプテン、好きでしょ?」
ベポが渡したものは、小さなコイン。
100円玉程度の……いや、まさしく100円玉だ。
ただし、デザインが普通の100円とは違っていて、オリンピックの聖火の絵が描かれている。
「記念硬貨か。これは、持っていないやつだ。ありがとな。」
「へへ……。」
付き合いが浅いムギでも、しげしげと硬貨を眺めるローが喜んでいるとさすがにわかった。
「100円を貰って嬉しいんですか?」
「バカ、ただの100円玉じゃねェ。オリンピックの記念硬貨だ。」
「キャプテンはね、記念硬貨集めが趣味なんだよ。」
わけがわからないという顔をしているムギのために、ベポが説明してくれる。
ムギも記念硬貨という物の存在は知っているが、確かあれは、デザインが違うだけで普通のお金と変わりないはずだ。
「それ、集めて楽しいですか?」
「ムギちゃん、収集ってのは男のロマンなんだぜ。俺もフィギュアとか集めて飾ってるし。」
「一緒にするな。」
ムギが集めて嬉しいのは、スーパーのポイントと抽選会の補助券くらい。
たぶん、ローたちのそれとは違う部類だ。
「貯めるならともかく、集めるのが趣味だなんて、変な趣味ですね。」
「……お前にだけは言われたくねェ。」
「やだな、貯金箱に貯金するのは、真っ当な趣味ですよ。」
でなければ、貯金箱という物はこの世に存在しないはず。
そうだ、ローの誕生日プレゼントは貯金箱にしてみようか。
きっと彼も、あの快感を知れば考えを変えるに違いない。