第6章 パン好き女子のご家庭事情
プレゼントで思い出した。
ムギの目的のひとつとして、ローに欲しいものを聞かなくては。
「あの、なにか欲しいものはありますか?」
「あ? 唐突になんだ。」
「いや、ほら、この前誕生日だったんですよね? いつもお世話になってますし、なにかプレゼントしたいなぁって。」
プレゼントは本来、自分で選んで驚かせるものだ。
でも、ローの好みなんてまったくわからないし、欲しいものを言ってくれた方が助かる。
ムギとしては、純粋に善意のつもりだ。
しかし、ローの反応は微妙である。
「世話に、な。別にお前、祝いたいと思ってるわけじゃねェんだろ?」
「そんなことはないですけど。……なんか拗ねてます?」
「はァ? なんで俺が拗ねなきゃならねェんだ。」
「さあ? でも、なんかそんな感じがしたので。」
「……可愛くねェ。」
またそれだ。
ローはムギが思いどおりにならないと、決まって可愛くないと言う。
でもそれは、外見の美醜や性格の良し悪しについて言っているわけではなく、単に彼なりの照れ隠しなのだと思っている。
なにに対して照れ、なにを隠しているのかまでは知らないが。
「で、欲しいものはあるんですか? ないんですか?」
「……。」
ローの眉間にぎゅっと皺が寄り、言葉に出さなくても「可愛くねェ」と思っているのが丸わかり。
だけど、ムギは別に可愛いと思ってもらいたいわけじゃないのだ。
それよりも、彼のプレゼントを聞き出す方がよほど重要。
「……欲しいものは、ある。」
「あるんですね。なんですか?」
ムギが買える範囲ならいいなと思って質問を重ねたら、黙りこくったローが僅かに距離を詰めた。
(……近いな。)
縮まる距離に慣れたはずのムギでさえ、少し近いと思った。
しかし、決して不快なわけじゃなくて。
ローの指が、ムギの髪先に触れた。
手櫛で整えたはずの髪は、もう乱れてもいないのに。
「俺の、欲しいものは…――」