第6章 パン好き女子のご家庭事情
二度目となるお宅訪問。
今回も前回と同じく、家にはローひとりしかいなかった。
一緒に暮らしているという親戚は、土日関係なく忙しい人らしい。
「ウーロン茶でよかったか?」
「はい、ありがとうございます。」
冷たいグラスを受け取って、喉を潤す。
以前お邪魔した時も思ったけれど、ローの部屋はとてもよく片付けられていて、清潔感がある。
なんとなく男子の部屋は雑多としているイメージだが、ローは違うらしい。
「それで、今日はどうしてローのおうちなんですか?」
「俺の家だと、なにか問題でもあるのか?」
「問題というか、理由が知りたいなと思いまして……。」
理由もなく家に呼ばれるわけがないと思って尋ねてみたのに、同じくウーロン茶を手にして絨毯の上に腰を下ろしたローは、なんとはなしに答えてくる。
「理由なんかねェよ。呼びたいから呼んだだけだ。」
「は……?」
年上に対し、それも協力をしてくれる人に対して、非常に失礼な態度だったとは認めよう。
が、しかし、理由もなく自宅へ呼ばれた身にもなってほしい。
「たまに、意味不明なことをしますよね。まあ、いいですけど……。」
本当はちっとも良くないけれど、来てしまった以上、そう言うしかない。
(部屋の中で二人きりって、まだ気まずいんだよなぁ。)
ローが饒舌な男なら、もう少し違ったのだろうが、彼は基本的に喋るムギの聞き役だ。
もっとも、饒舌なローなど想像できないのだが。
「あれ……。」
ウーロン茶を飲みながら部屋の中を見回していたら、以前来た時にはなかったはずのものに気がついた。
「その子、飾ってくれてるんですね。」
「ああ、アレか。」
ベッドサイドに陣取る一匹のレッサーパンダ。
虎の巣穴に動物園の可愛らしい人気者がいるのは実に奇怪な光景だが、あのレッサーパンダはムギがローにプレゼントしたもの。
「気に入っているからな、一応は。」
「一応ってなんですか、もう。」
約束どおり大事にしてくれている様子に、図らずも嬉しくなる。
けれど同時に、完全なるプライベート空間にムギが足跡を残してしまったようで、妙に落ち着かない気分になった。