第6章 パン好き女子のご家庭事情
翌日の日曜日、約束どおり、ローはムギを迎えに来た。
街に出掛けるわけでもなかったので、服装はセーターにストレッチパンツというラフな恰好。
しかし、その日はいつもとは少し違った。
「……なんですか、それ。」
マンションの下で待っていたローは、歩きではなかった。
大きなスクーターに寄り掛かり、手にはヘルメット。
「バイクだ。」
「そんなことは見てわかりますけど、なんでバイクなのって聞いてるんです。」
「面倒だろ、歩くの。」
「……まさか、それに二人で乗るわけじゃないですよね?」
ぞっとした表情で、ムギは一歩後退した。
実はというと、バイクは苦手だ。
ムギの親友ボニーはバイク乗りで、女子のわりにいかついオートバイを乗りこなしている。
以前、誘われるがまま同乗したのだが、あまりにも乱暴な運転に言葉もなく気絶しかけたほど。
ちなみに、バイクで二人乗りをしていいのは免許取得から一年経過した者だけで、16歳のボニーが違反対象だったと知った時には、彼女の頭をゲンコツで殴ったものだ。
それ以来、怖くてバイクに近づけない。
「乗らねェでどうすんだよ。わざわざ押して歩くために持ってくるわけねェだろ。」
「せめて、事前に相談してくれません?」
そうしたら、ローのお迎えもバイクも断ったのに。
「なんだ、怖ェのか?」
「……はい。」
嘘をついてもしかたがないので素直に答えると、ローはゆったりとした後部座席をポンと叩いた。
「安心しろ。そうかもしれねェと思ったから、スクーターにした。女を乗せて飛ばすほど、常識知らずじゃねェよ。」
「はあ。」
スクーターもオートバイも違いがよくわからないけれど、せっかく迎えに来てもらった手前、ワガママを言うわけにはいかない。
なにしろ、迎えに来ているローは往復しなくてはならないのだ。
「わかりました……。」
気分はバンジージャンプをするために高台へ上った時と同じ。
バンジージャンプなんて、チャレンジしたことはないけれど。
女は度胸だ。
受け取ったヘルメットをすっぽり被り、どっしり大きなスクーターによじ登った。