第6章 パン好き女子のご家庭事情
帰宅して早々に入浴したムギは、濡れた頭にバスタオルを引っ掛けながら、バッグに入れっぱなしだったケータイを取り出した。
そろそろローが連絡を寄越す頃合いだと思ったのだ。
昨日はローがくれた連絡に気がつくのが遅れてしまい、ちくちくと嫌味を言われたから学習したのである。
(まさか、一昨日が誕生日だったなんて。あ、おめでとうって言うのを忘れた。)
肝心な一言を言い忘れ、濡れた髪をわしわし掻いた。
(誕生日プレゼントとか、用意した方がいいのかな? ものすごくお世話になってるし、礼儀ではあるよね。)
しかし、ローの欲しがりそうなものが思い浮かばない。
男子の嗜好自体がわからないし、ついでに言うとムギのセンスはちょっと悪い。
これは本人に聞くのが一番手っ取り早いかと思いながらケータイを起動させると、やはりローからメールが届いていた。
(えーっと、なになに? 明日は1時に迎えに行く。行き先は…――)
「えッ!?」
その先の文章を読んで、ムギは思わず声を上げた。
驚きのあまり、バスタオルが床にばさりと落ちる。
「えー……。」
困惑の声を漏らしながら、画面を食い入るように見つめた。
いくら見つめようとも、メールの内容は変わらないけれど。
『行き先は、俺の家。』
アブサロムに見せつけるという目的をまったく果たせそうにない場所を指定され、またもやローの考えがわからなくなった。
(……ま、いっか。ローのおうちには一回行ったこともあるんだし、問題ないよね。)
ローが自分相手に変な気を起こすはずもなく、警戒する方が恥ずかしい。
なにも思わないわけではなかったが、ムギはローに「了解です」とだけ返信をした。