第6章 パン好き女子のご家庭事情
写真撮影という大仕事を終えたあとでは、ラクガキにまで手が回らなくなってもしかたがない。
センスの問題で可愛らしいデコレーションはできないし、適当に日付スタンプや文字スタンプを押してプリクラを終了させた。
「あ、出てきましたね。」
数分後に印刷し終わったシールを手にして、半分をローにあげた。
改めて見直してみると、ひどい写真だ。
(イケメンはいいよなぁ、どんな顔しても格好いい。)
青くなったり赤くなったりしているムギとは違い、ローはどの写真を見ても素晴らしくイケメンだ。
一度でいいから、この表情を崩してみたい。
「……あんまり人に見せないでくださいよ?」
居心地が悪いゲームセンターを出てからお願いをしたら、当然だとばかりにローも頷く。
「見せるかよ、もったいねェ。」
もったいない?
恥ずかしいの間違いではないだろうか。
ローとプリクラを撮る機会なんて二度とないだろうけれど、今日という日を形に残したそれを、ムギはバッグに大切にしまった。
電車に乗って最寄り駅まで帰り、家まではローが送ってくれた。
このマンションの下で待ち合わせたのは、昼前の話なのに、すでに空はとっぷりと暮れており、時間の経過を如実に現している。
ローと一緒にいると、いつも時間があっという間に過ぎてしまう。
「今日はどうもありがとうございました。」
「付き合わせたのは俺だ。礼を言われる筋合いはねェ。」
「でも、結局奢ってもらいましたし。」
「自分の女に金をつぎ込んでなにが悪い。」
「……。」
一瞬、本当にローと付き合っているような錯覚を起こした。
演技派なローは日頃から付き合っているフリが上手くて、すべてを知るムギでさえ、時折騙されそうになってしまう。
ローと付き合う人は、幸せだ。
一見、冷たそうに見えるけれど、実際はこんなに優しくて頼りがいがある男性なのだから。
彼はきっと、本物の彼女にも優しく、そして大切にするのだろう。
「とにかく、ありがとうございます。……明日もどこか行くんでしたっけ?」
「ああ。またあとで連絡する。もう中に入れ。お前が中に入らなきゃ、鬱陶しいストーカー野郎から守ってやれねェ。」
「……はい。」
ローは、優しい。
でも、その優しさを勘違いするのだけは、絶対にダメだと思った。