第6章 パン好き女子のご家庭事情
ムギがやってみたいと言ったゾンビゲームは、車に模した乗り物の中に入り、画面を見ながら襲い掛かってくるゾンビたちを銃で撃ち殺すアーケードゲーム。
「あ、軽い。見かけよりもずっと軽いですね、この銃。」
「ハリボテだからな、そんなもんだ。重かったら扱いづれェだろ、ゲームなのに。」
専用の銃は猟銃ほどの長さがあり、肩に担いで構えるタイプのものだった。
ちなみにこのゲーム、R15指定らしい。
お金を入れるとストーリーが始まって、冒頭は主人公らしき人物がゾンビが蔓延してしまった経緯について語っていた。
語りを聞いたあと、ようやくステージ1が始まる。
「えーっと、撃つ時はトリガーを引いて、リロードはこっちのボタンでしたっけ?」
「そうだ。ほら、敵のお出ましだぞ。」
「はい……って、うわーッ! なんかいっぱい出てきた!」
廃屋に入った途端、わらわらと出現したゾンビたちがプレイヤーに向かって襲い掛かってくる。
「そういうゲームだ。さっさと撃たねェと死ぬぞ。」
「そう言われても! ぎゃーッ、怖い怖い! えッ、こっちにも!?」
「……うるせェ。」
無駄に美しい4K映像や、リアルなグラフィック。
表現しがたい呻き声を上げながら襲い掛かってくるゾンビ相手に、怖がるなと言う方が無理だ。
「え、当たらない! なんで? なんでぇ?」
「弾がなくなってんだよ。リロードボタンを押せ。」
「は、そうか……! あぁ、もうダメ。死んじゃいたい。あとは頼みました!」
「弱音を吐くな。守ってやるから、しっかり立て。お前はそこにいるだけでいい。」
あ、今、きゅんとした。
ローがものすごく格好よく見える。
もしやこれが、吊り橋効果というやつか。
さらには、有言実行できるところがすごい。
銃を構えたローは素早い指捌きで次々とゾンビを撃破し、ムギという足手まといを抱えたまま、最終ステージにまで到達した。
ラスボスは変異を起こした触手系ゾンビ。
粘つく体液を吐き出し、もはやエイリアンである。
「あーッ、あーッ! もう無理! わたしのことは見捨ててください!」
「見捨てるか、バカ。いいから黙って見てろ。守ってやると言っただろう。」
ものすごく格好いいセリフを吐きながら、彼は見事ボスを撃破した。
思わず、ローのことをキャプテンと呼びたくなってしまう。
