• テキストサイズ

パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第6章 パン好き女子のご家庭事情




レストランを出たあとになって思ったが、あの場所で恋人のフリをする必要はあったのだろうか。

いくらアブサロムを騙すためだとはいえ、恐らくレストラン内にアブサロムはいなかった。
彼の目がない場所においての演技は無意味だと、頭の良いローならばわかっているはずだ。

「あの、今さらですけど、映画館やレストランじゃなくて、もっと目立つ場所に行った方がいいんじゃないですか?」

「例えば?」

「えっと……、とにかくこう、人の目があるところ。」

残念ながら、デート経験皆無のムギには良い案は思い浮かばず、曖昧な感じで答えると、さもつまらないことを聞いたとばかりにローがムギの手を取った。

「興味もないところに、わざわざ足を運ぶつもりはねェ。それともなにか? ハチ公前でいちゃついときゃいいのか?」

「そんなこと言ってないですよ! ただ、ほら、目的のために意味がないっていうか……。」

いちゃつくいちゃつかないは置いておいて、意味がない場所で努力しても無駄な時間を過ごすだけ。
面倒事に付き合ってくれるローのためにも、早く結果を出さなければならない。

すると、焦るムギを宥めるように、繋いだ手に力がこもる。
いちいち心臓に悪いからやめてほしい。

「意味ならある。」

「そうなんですか? どんな意味があるんです?」

「俺が楽しい。」

「は……。」

ぽかんと口を開けてローを凝視した。
でも、もとより表情に乏しいローの心の内は読めず、本気なのか冗談なのかもわからない。

(楽しんでくれてるなら、いいのかな……?)

ムギが一日でも早くアブサロムをどうにかしたいのは、つけ回されるのが恐ろしいからという理由が一番だが、これ以上ローに迷惑を掛けたくないという理由もそれなりにある。

(や、甘えちゃダメだよ。)

ムギが迷惑を掛ければ掛けるほど、ローにとって不名誉な噂がつきまとい、本当に好きな人ができた時の足枷になる。
いくら、今が楽しくても。

(……違う、楽しくなんてない。)

映画が楽しかったのも、食事が楽しかったのも、相手が誰であっても同じ。

ローと一緒だから楽しいなんて、絶対にない。



/ 400ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp