第6章 パン好き女子のご家庭事情
ローとやってきた場所は、焼き立てパンが有名なベーカリーレストラン。
メインメニューを一品とパンのセットを頼むと、店内で焼いたパンが自由に食べられる。
「んん、このバジルロール美味しい! 香りがすっごくいいですよ!」
香草をたっぷり練り込んだパンを頬張り、ムギはご満悦な笑み浮かべた。
一緒に頼んだ煮込みハンバーグとの相性も良く、パンにソースを絡めて食べるとこれがまた最高だ。
「……そりゃァ、よかったな。」
対し、ローが頼んだのはシーフードカレー。
もちろん、カレーのお供はライスである。
カレーとライスのコンビが相性抜群なのは知っている。
しかし、カレーとパンだって素晴らしく相性が良いと思わないか。
「もったいないなぁ。パン、一口食べてみません?」
「いらねェ、パンは嫌いだ。」
「でも、ラスクは美味しかったでしょ? というか、ローはなんでパンが嫌いなんです?」
ローのパン嫌いを知って、ムギは何度もその理由を考えた。
好みの問題だとはいえ、こんなにも美味しいパンを不味いと言える人の気持ちがわからない。
「もそもそして気持ち悪ィんだよ。スポンジでも噛んでいる気分になる。」
「えー、信じられないです。パンって、もそもそじゃなくてもちもちだと思うんですけど。それに、スポンジと同じだなんて、ローの舌はちょっとおかしいんじゃないですか?」
「……なかなか言うじゃねェか。」
ともすれば悪口に分類されそうな発言をし、隈の濃い凶悪な目で睨まれたが、短期間で一緒に過ごしすぎたのか、どれだけ凄まれても怖いとは感じなくなっていた。
「食わず嫌いかもしれませんよ? ほら、ちょっと食べてみてくださいよ。」
まだ温かいロールパンを一口大に千切って差し出してみたら、あからさまに嫌な顔をされた。
「お前、さっきはパン嫌いな人間に強要はしないと言ってなかったか?」
「それはそれ、これはこれです。もしかしたら、パン嫌いが治るかもしれないじゃないですか!」
完全なる大きなお世話を焼き、ほらほらとパンを近づけたら、迷惑そうにしたローがため息をひとつ吐き、ムギの手首を取った。
調子に乗りすぎたかな?と思った瞬間、パンを持った指を引き寄せられ、そのまま指を…――。
「……不味い。」