第6章 パン好き女子のご家庭事情
「スタンピード、最高でしたね!!」
控えめに言っても最高だった映画の感想を口にして、ムギは興奮気味に瞳を輝かせた。
「ああ、そうだな。」
「……本当に思ってます?」
冷めた相槌を適当に返すローを不審に思い尋ねてみても、彼は曖昧に苦笑するばかり。
まさか、隣に座っていた彼が映画ではなく自分を見ていたなどとは予想もしていないムギは、表情が読めないローに首を傾げた。
「腹が減った。メシにするか。」
「そうですね。なにが食べたい気分ですか?」
本音を言うと、ほとんどひとりでポップコーンを食べたムギのお腹はさほど空いてはいない。
しかし、時刻は2時を過ぎていて、ランチをとるにしても遅いくらいだ。
「お前は? なにが食べたい。」
「それ、わたしに聞いちゃダメな質問だと思いますよ。」
ムギの食べたいものは、もちろんパン。
大きな駅には何軒もパン屋があって、各店の一番人気商品を食べ比べてみたくてうずうずする。
でもローはパンが嫌いだから、コーヒーを飲むでもなく、昼食をとるためにパン屋へなど足を向けたくないだろう。
案の定、眉間に皺を寄せたローはしばらく渋面を作った。
しかし、予想外だったのは、ローがムギの意見を受け入れたことである。
「わかった。」
「え!? いや、冗談ですよ? いくらわたしでも、パンが食べられない人に強要はしませんって。」
「今さら……。散々試食を勧めてきたのは、どこのどいつだ。」
「あ、あれは、仕事の一環です! それに、強要はしてないでしょ!?」
試食の件を出されると辛い。
あの時のムギはローにパンを食べてもらいたくて必死で、謎の闘争心を燃やしていた。
言い訳を紡ぐムギを無視し、ローは勝手に繋いだ手を引きながら、相談もなく店を決めてしまった。