第6章 パン好き女子のご家庭事情
頑固というか、なんというか。
ローは映画のチケット代を受け取ってくれなかった。
自分が勝手に予約したからと言うが、ムギだって観たいと言っているのだから、素直に払わせてくれればいいものを。
代わりにドリンクとポップコーンは無理やりにムギが奢った。
なにがどう無理やりにかというと、ドリンクはともかくとして、ポップコーンは不要だと言われてしまったのだ。
ポップコーン無しに映画を観るなど、ムギ的にはあり得ない。
結果、ドリンク二つとハーフ&ハーフのポップコーンを購入することで落ち着いたのだが、ここでひとつ問題が。
(なんでポップコーン、二つ買わなかったんだろう……!)
ハーフ&ハーフのポップコーンは仕切りがついた大きなカップがひとつだけのタイプ。
ゆえに、二人でひとつのポップコーンを共有する羽目になる。
(うう、取りづらい。)
大きなカップは座席のホルダーには入らず、ローが片手で持ってムギの方へ寄せている状態だ。
必然的に彼の方へ手を伸ばさなくてはならないわけで、非常に気まずく居心地が悪い。
ムギの遠慮に気がついたローは、ポップコーンを揺らしておもしろそうに口角を上げる。
「どうした、お前が食いたいと言ったんだろ。それとも、食わせてもらいてェのか?」
「な……ッ」
揶揄われているのだとはわかっている。
だが、理解するのと動揺しないことは別問題であり、ムギの頬は悔しくも赤く染まった。
「自分で食べられますよ、もう!」
ぷりぷり怒りながら乱暴にカップへ手を突っ込み、いくつかのポップコーンを口の中に放り込む。
考えてみれば、ローとは手だって繋いだのだ。
間合いに手を突っ込むくらい、なんてことないはず。
そう思ったら、ムギの緊張が解けるのは早かった。
館内が暗くなり、映画が始まったタイミングも重なって、ムギの意識はしだいにスクリーンへと集中していく。
来場客が大人気の冒険ファンタジーの世界へと引き込まれていく中、唯一、ポップコーンを手にしたやたら顔が良い男だけは、隣のレッサーパンダの横顔だけを眺めていた。
しかし、当の本人がその視線に気がつくことは最後までない。