第6章 パン好き女子のご家庭事情
ムギたちがやってきたのは、合コンを開催したある意味思い出深き駅である。
駅ビルやショッピングモールがあり、若者から年配者までが楽しめる大きな駅だ。
電車から降りたローは、当然の如くムギの手を取って歩き出す。
しかし、これがまた恥ずかしい。
人通りが少ない夜道とは異なり、休日で雑多としている街中では昨夜とはまた違った意味でパニックを起こしそうになる。
「どこへ行くか決めているんですか?」
「ああ。」
短く返事をするローは、少しも恥ずかしくないのだろうか。
それとも、こうしてデートをするのは、慣れたものということか。
「……。」
なんだろう、ちょっと胸がもやっとする。
朝食にクロワッサンを食べすぎたのかもしれない。
「なんだ、急に黙り込んで。どうかしたのか?」
「や、別に。それより、どこに行くんです?」
「映画を観に行く。」
「え、映画ですか?」
てっきり、自分たちを観察しているであろうアブサロムにアピールするため、デートを遂行しているのかと思っていたのに、映画館に入ってしまっては見えるものも見えなくなる。
「それって、意味あります?」
「あるに決まってんだろう。観たいもんがある。」
「あ……、そうですか。」
なんだ、単にローが観たい映画があるだけらしい。
アブサロムを牽制するついでに、映画に付き合ってもらいたいのだろう。
「なに観るんですか?」
「スタンピードだ。」
「あ、いいですねぇ! それ、わたしも観たいと思っていました!」
大人気の海賊冒険シリーズ。
最新作の映画が公開になったから、観てみたいなぁ……とは思っていた。
しかし、なにせ映画は高いので、もっぱらレンタルを待って自宅で見るタイプ。
「だと思った。」
「え? なにか言いました?」
「いや、なにも。」
小声の呟きを聞き逃したムギは、るんるんとした気分で映画に思いを馳せる。
(映画館に行くの、中学生以来かも。わたしの都合に付き合ってもらってるんだし、今日こそは奢ってあげよう。)
ローにお礼がしたかったから、ちょうどいい。
そう思っていたのに、映画館に着いた途端、ローは機械を操作してネット予約をしたというチケットを早々に発券してしまった。
いい男は、デートの手際すらも素晴らしい。