第6章 パン好き女子のご家庭事情
ムギの戦力が欠けたバラティエでは、ゼフの力によって対策がなされていた。
要するに、人員の補充である。
「え、新しいパン職人の方が入るんですか?」
「ああ、来週からだ。職人って言っても、まだ見習いだがな。」
なんでも知り合いの息子らしく、若い時はそうとうやんちゃをしていたようだ。
数年前、当時は荒れていたその人に、ゼフとサンジが軽く灸を据え、以来二人に対して恩義と憧れを抱くようになったらしい。
「あいつの親父はクズだが、本人は言ってみりゃ真面目なやつだ。うちの店で働きてぇって言うなら、それもいい。俺ァ来るものは拒まねぇ主義なんだ。」
「……店長、格好いいです!」
パン職人見習いの人となりは知らないが、ゼフがそこまで言うのなら、ムギだって信頼できる。
バラティエの採用面接で、懇々とパンへの愛を語ったムギを雇うと決めたのもゼフだ。
今思えば、面接時のムギはそうとう変態的だったと思う。
来週から働いてくれるならば、ムギが抜けた穴もほどなくして埋まるだろう。
彼の働きぶりによっては、人手不足そのものが解消されるかも。
「店長、その職人さんがバリバリ働いても、わたしのことをクビにしないでくださいね?」
もともと人手が足りなかったから雇われたムギだ。
手が足りるようになったら、十分に働けもしない従業員など不要になってしまうのではないかと不安に思って尋ねてみると、美味しいパンを生み出す温かいゼフの指がムギの額をびしりと弾く。
「馬鹿言うんじゃねぇ。お前がいなかったら、うちのパンは売れねぇんだよ。ちったァ自覚しろ、看板娘!」
「て、店長……!」
じんと熱くなる額を手のひらで押さえながら、感極まった。
あと100年……、いや、50年早く生まれていたら!
それにしても、おでこが痛い。