第6章 パン好き女子のご家庭事情
このメンバー内で唯一、プリンだけが合コンの真実を知っている。
ムギは興味が向かないことにはとことん無関心で、あの日、自分がなぜ合コンに誘われたのか、なぜムギじゃなければいけなかったのか、未だに知ろうとしない。
合コン幹事のシャチから指名があった旨を、プリンはムギに教えていなかった。
あの日、驚いたことが二つある。
ひとつは、指名をしてきたくせに、シャチを含めハート高校の面々はムギの顔を知らなかった。
ただひとり、ローを除いて。
もうひとつは、ローがやたらとムギに執着していたこと。
プリンが一生懸命話し掛けても、会話どころか相槌すらまともに打たなかったローがムギの隣に移った途端、人が変わったように積極的になった。
この時点で、誰がムギを指名したかなんて、答え合わせをする必要もなくわかった。
なぜローがムギを指名したかは、ローを狙っていた時のプリンは目を背けていたけれど、今日になって予感は確信へと変わる。
ローはムギにご執心だ。
彼女を助け、守り、恋人のフリを申し出るほどに。
そういう執心を、世間ではどう呼ぶかムギは知っているのだろうか。
いや、知るはずがない。
彼女は今現在とて、ローの行動を単なる善意なのだと信じているから。
世の中には、確かにそういう種類の人間も存在しているが、間違いなくローはそういうタイプではない。
彼が優しさを向ける相手は、限定されているのだ。
ムギが望もうが望むまいが、二人の仲を応援してあげよう。
だって、そうした方が自分に利がありそうだから。
応援はする。
応援はするけれど……。
でも、教えてあげない。
少しくらい、苦労すればいいと思った。
それが、こんなに可愛い自分に1ミリたりとも靡かなかったローへの仕返し。