第6章 パン好き女子のご家庭事情
本気の恋をしたプリンは、サンジの情報を得たくてムギを中庭に呼び出したのだ。
上級生が下級生の教室で弁当を食べるには、少々目立ちすぎる。
ボニーは迷惑そうにしていたが、ムギもちょうど二人に話しておきたいことがあったのでタイミングがいい。
「じゃあ、プリン先輩って、もうローのことは好きじゃないんですか?」
「全然好きじゃないわ。ていうか、私に釣り合いそうだと思っただけで、別に好きじゃなかったみたい。」
「……はあ。」
真実の愛を知ったプリンの眼中には、もはやローは入っておらず、あれほど熱を上げていたのに手のひらを返すようだ。
サンジから貰ったパンを愛しげに抱きしめ、悩ましい息を吐く。
こういう部分が、ローの女嫌いを増長させる要因だろう。
「つーか、ムギ。お前、ローって人のこと、今まで呼び捨てにしてたっけ?」
「そういえばそうね。あんた、いつの間にローくんと仲良くなったの?」
「えっとぉ……。」
そう、二人に話しておきたかったのは、まさにそのこと。
親友のボニーには事情を打ち明けておきたいし、情報通なプリンはそのうちローとの噂を耳にしてしまう。
他校の見知らぬ女子たちならともかく、ボニーやプリンに誤解をされるのはちょっと辛い。
「実は、二人にだけ相談というか、報告というか……。」
もにょもにょと語尾を小さくしながら、ムギは事のあらましを説明した。
ただし、過去の事件の説明は省いた。
同情を買いたいわけではなかったし、そこまで深刻なのだと心配されたくもなかったから。
アブサロムのことを“少し前にフッた男”とだけ聞かされたボニーは、青筋を浮かべてベンチから立ち上がる。
「おい、ちょっとその男の特徴を教えろよ。安心しろ、今すぐ私が受精卵にまで時を戻してやる。」
「ボニー、落ち着いて! 意味がわからないし! ていうか、大事にはしたくないんだってば!」
喧嘩っ早いボニーを宥めたら、プリンが「バカねぇ」と呟いてにっこり微笑んだ。
「そんな証拠が残るような真似してどうすんの。やるなら完璧に、完全犯罪にしなくちゃ。例えば、記憶を消すとか。」
うふふ、と笑うプリンはある意味ボニーより怖かった。
味方になってくれるのは嬉しいが、どうやら相談する相手を間違えたようだ。