第6章 パン好き女子のご家庭事情
昼休み、いつもは教室で昼食をとるムギとボニーは、珍しく中庭のベンチでお弁当を広げていた。
「……で? なんでこいつが一緒に弁当食ってんだよ。」
「あんたね、前からちょっと思ってたけど、生意気じゃない? 私はこれでも先輩なんだから、少しは敬いなさい!」
「はぁ? 一年早く生まれただけで、そんなに偉いってのかよ。敬われたかったら、相応の行動をしろよな。」
「なんですって……!?」
右隣はボニー、左隣はプリンに挟まれたムギは、繰り広げられる喧嘩に我関せずの態度を貫きながら焼きそばパンを頬張った。
美味しい、炭水化物に炭水化物を挟んでいるのに、なぜこんなにも美味しいのか。
「おい、ムギ! 幸せそうにパン食ってないで、少しは話に入ってこいよ!」
「ああ、ごめん。喧嘩が終わったら入ろうと思って。」
喧嘩が終わらなければ永遠に介入しないつもりでいたと暗に伝えると、ボニーもプリンもぐっと唇を引き結んだ。
「……で、なんの用事があっているんだって?」
きちんと喧嘩腰を引っ込められたボニーの頭をよしよしと撫で、ご褒美に焼きそばパンを半分あげた。
「プリン先輩、うちのパン屋のサンジさんに一目惚れしたんだって。」
「サンジ……って、あの女好きのぐる眉職人か。」
「そうそう。」
ボニーは一度、バラティエで頑張るムギを冷やかしに店を訪れたことがある。
例によってサンジの熱烈歓迎を受けてドン引きし、それ以来バラティエには来なくなった。
「趣味が悪いな、あんた。」
「ふん、サンジさんの良さはあんたみたいな色気より食い気の女にはわからないのよ! あの人は、私のことをわかってくれて、誰にも言っていない夢まで受け入れてくれて、認めてくれたの!」
「……そうでしたっけ?」
ムギの目には、いつものようにキザったらしいセリフを吐いているだけに映ったが、プリンにはまったく別の景色が見えていたらしい。
「私のお菓子作りなんか、いつもお遊びだと思われていたのに……職人だなんて言われたの、初めてだったわ。」
頬を桃色に染めながら、ぽぅっと甘い瞳をしたプリンは、ローを好きだと肯定した時の彼女とは、まるで別人だった。