第6章 パン好き女子のご家庭事情
駅のホームに着いたところで、ムギは念のためプリンの姿を探した。
さすがにこんな早朝から待ち伏せてはいないだろうが、彼女には昨日、ローの最寄り駅としてここを案内してしまったから。
「誰か探してんのか。」
「いや、あー……、プリン先輩を。ほら、このパンをあげようと思っていて!」
「誰だ、そいつは。お前の学校のやつか?」
ストーカー被害に悩む一方で、ローに対し情報を漏らすような真似をしてしまった罪悪感から、ムギはしどろもどろになりながらパンを言い訳にした。
しかし、当のローはプリンを覚えてはいなかった。
「ひどッ! ほら、この前の合コンにいたでしょ? チョコレート色の髪をした、ふわふわで可愛い二年生!」
「覚えてねェな。」
「え、記憶喪失ですか? 隣の席に座ってたでしょ? あんなに可愛かったのに。」
ロー狙いのプリンは、積極的に話し掛けていたはずだ。
それをまったく覚えていないなど、進学校主席にあるまじき記憶力。
「興味がないやつの顔なんざ、いちいち覚えられるか。特に、女はみんな同じ顔に見える。」
「それ、病気じゃないですか? というか、女の子に興味がないなら、どうして合コンなんかに来たんです?」
実は前から不思議に思っていたことを尋ねると、ローはむっつりと押し黙った。
聞いてはいけない質問だったのだろうか。
「……お前は?」
「わたし? わたしは、まあ……、ご褒美に釣られまして。見てわかったとは思いますが、人数合わせです。」
「お前らしいな。俺も……、だいたい同じような理由だ。」
「え、ご褒美に釣られたんですか?」
意外だ。
ローは物で釣られなさそうなイメージがあったけれど、実は案外物欲に弱いタイプなのか。
それとも、ムギのフルーツサンドのように、ものすごくイイモノだったのかもしれない。
「なに貰ったんですか?」
「とびっきり、レアなもんだ。」
「レア物……! それじゃあ、しかたがないですね。」
「ああ、しかたねェ。」
思ったよりも、ローは高校生らしい一面を持っていたようだ。
よかった、物に釣られて合コンに参加したのは、ムギだけじゃなかった。
それにしても、ローが合コン参加を承諾するようなレア物とは、いったいどんなものなのだろう。
気になる。
いつか教えてもらおう。