第6章 パン好き女子のご家庭事情
アブサロムの暴走は、ついにモリアの知るところになった。
モリアはアブサロムを愛しく思っていたが、一歩間違えれば犯罪となる事件を目の当たりにして、お咎めなしにはできず、思春期を拗らせた息子に対し、非情な宣告をした。
『金を使い込むくらいなら大目に見られたが、身内を害するやつァ俺の家に置いてはおけねぇ。荷物を纏めて出て行きな。』
『な……ッ、モ、モリア様……!』
登校拒否になっても、引きこもっても、唯一味方でい続けたモリアに見放され、アブサロムは頭を殴られたようにショックを受けていた。
苦渋の決断をしたモリアとは真逆に、ペローナは当然だとばかりに頷き、これで事件は一件落着かと思われた……が、それに待ったをかけたのはムギである。
『待ってください! アブ兄を追い出すくらいなら、わたしが家を出ていきます!』
ムギの申し出にモリアもペローナも目を丸くしたが、強引に叔父宅に住まうことを願い、事件のきっかけを作ったムギが、のうのうとモリアやペローナと暮らしていけるわけがない。
例え、モリアたちがそれを願っても、このままではムギは負い目を抱え、幸せにはなれないと考えた。
何度も説得され、話し合いを重ねた結果、家賃と学費をモリアが出すのを条件に、ムギは彼らの家を出た。
それが半年前、スペード高校に入学した春の話。
高校生のムギがひとり暮らしをしている理由。
ひたすらにパンを愛するムギの家庭事情である。