第6章 パン好き女子のご家庭事情
変化によって快感を得た人間は、留まるところを知らなくなる。
アブサロムの“デビュー”は日に日に勢いを増し、もはや引きこもりだった頃の彼は消え去った。
自ら外へ出て、前を向いて生きられるようになったのはいいことだ。
だが、代償として服やアクセサリーを買いあさるため、モリアの金を使い込んだりもしていた。
怠慢なモリアは、己の懐から金が流れていくのに気がつかない。
気がついていたとしても、息子が使う些細な金くらいどうでもいいと感じるのがモリアだ。
さらに、目立つようになったのはアブサロムの非行。
吸えもしない煙草をふかし、飲めもしない酒を含み、しかもそれを見せつけたいのか、わざとムギの前でするのだから意味がわからない。
『アブ兄、未成年なんだし、そういうことはやめた方がいいんじゃない?』
『ぬ? ああ、わかってしまったか。隠していたつもりなんだがな。』
注意をしても誇らしげに照れ笑うアブサロムを、ムギはどうしたって理解ができない。
ムギの困惑は当然の感情だったはずだが、しかし、長らく対人コミュニケーションを放棄していたアブサロムには、あらぬ誤解を与えてしまう。
ムギが喜んでくれないのは、俺の顔が気に入らないのだと。
そしてついに、アブサロムは覚悟を決めた。
イジメの原因となった顔にメスを入れ、鼻と顎を整形したのだ。
雄々しく獰猛な鼻と口。
彼はまさに、百獣の王と呼ぶにふさわしい顔になった。
大きく変わってしまった従兄の姿に絶句したムギを見て、アブサロムは自信満々に言い放った。
『どうだ、ムギ。俺は格好いいだろう……?』
この時になって、ようやくムギは気がついた。
アブサロムは、とんでもない勘違いをしているのではないか……と。