第6章 パン好き女子のご家庭事情
ムギはモリアのもとへ行きたいと望んだけれど、一方でモリアはあまり良い反応を示さなかった。
『うちにゃァ、ガキが二人もいるんだ。これ以上面倒事を背負うのは勘弁してぇな。ほかの家に引き取ってもらえ。』
他力本願なモリアからはそう言われたが、ムギが「叔父さんの家がいい」と訴えると、渋りながらも彼はムギを迎え入れてくれた。
夏を迎える頃には完全にモリアの家に移り住み、新しい生活が始まる。
モリアには二人の子供がいて、兄のアブサロムと妹のペローナ。
あまり親戚付き合いを好まないモリアの意向で、二人と顔を合わせたのは子供の頃以来だった。
勝気な少女だったペローナはそのまま成長し、可愛いもの好きも変わらず、部屋は不気味でファンシーなぬいぐるみでいっぱい。
同い年ということもあり、ムギとペローナは離れていた時を埋めるように、すぐに距離を縮めていった。
一方で、数年の時を経て変わってしまったこともある。
当時高校二年生であったアブサロムは、入学した高校でイジメに遭い、登校拒否をして部屋に引きこもっていた。
モリアが言った面倒事とは、もしかしたらそのことだったのかもしれない。
イジメの原因はアブサロムの容姿で、キモイ、ウザイを言われ続けた彼は、家族にさえも顔を見られるのを嫌がる。
ムギの記憶ではアブサロムの容姿はそれほど悪くなかったと思っているが、人の感性はそれぞれだし、イジメの理由に正当性を求める方が間違っている。
ペローナほど意見をはっきり言えるのならば良かったけれど、アブサロムはどちらかといえばネガティブな性格をしていた。
モリア一家に引き取られたのなら、ムギにとってアブサロムは家族。
家族がいじめられたり、引きこもったりするのは悲しい。
無理に学校に通わなくても、せめて家の中では自由に過ごせたらいいのに。
そう思ったムギは、なるべくアブサロムに接し、彼の心の傷が少しでも早く治るように努めよう……そう思ったのだ。
でも、それがすべての始まりだった。