• テキストサイズ

パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第6章 パン好き女子のご家庭事情




不慮の事故で両親が亡くなったのは、ムギが中学三年生の春だった。

当たり前のように愛されて、当たり前のように順風満帆な生活を送っていたムギは、かけがえのない両親を喪い、それこそ自分が世界で一番不幸な人間だとすら思っていた。

ムギの周りには親戚や両親の友人が集まり、代わる代わる慰め、労わってくれたが、中でも印象的だったのが叔父であるモリア。

彼は絶望の淵で沈むムギに向かって、こう言ったのだ。

『キシシ……。おい、ムギ。お前、自分がこの世で一番可哀想な女だとでも思ってんじゃねぇだろうな。勘違いすんなよ、悲しみなんてもんはなぁ、比べられるもんじゃねぇんだ。』

変わり者だと有名な叔父は、ムギに向かって辛辣な言葉を吐き、周囲の大人に窘められてもムギに言い続けた。

『自分を憐れんで生きるのは、そりゃァ楽な生き方さ。でもな、人間死ねば同じ浄土に行くって言われてんだよ。お前、死んであの世に行ったら、あいつらにシケた面を見せるつもりか……?』

自分の殻に閉じこもり、俯きながら生きるのは確かに楽だ。
周囲は同情してくれるだろうし、生温かい世界で生きていける。

でも、そんな人生を両親は望んでいるだろうか。
モリアが言うとおり、いつか天国へ行った時、不幸な人生を歩んだと彼らに報告できるのか。

もし死後の世界があって、遠い未来に二人と再会できたなら、ムギは言いたい。
「二人がいなくて寂しかったけど、わたしは自分の足で立派に生きたよ!」と、胸を張って。

だからムギは、自分を憐れむのをやめた。
あとから考えてみたら、葬儀屋を営むモリアは、同じような境遇の人を何度も見てきたのだろう。
自分を憐れみ、死者に縋って生きる人の末路をモリアは知っていたのかもしれない。

自堕落で変わり者で、だけど優しい叔父をムギは心から尊敬した。

ムギの周りには「一緒に暮らそう」と言ってくれる人がたくさんいたけれど、ムギはモリアを選んだ。
自分で選ぶことこそが、自立への第一歩だと思ったから。



/ 400ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp