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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第6章 パン好き女子のご家庭事情




「それじゃ、お疲れ様です。」

「じゃあね、ムギちゃん! 気をつけて~!」

今までより一時間早く、閉店と同時にムギはバラティエを出た。
後片付けをせずに退勤するのは心苦しいが、今後は勤務日数自体を調整する必要も出てきそうだ。

(叔父さんにはちゃんと話さないとなぁ……。)

今度の休みか、それかモリアの都合の良い日を聞いて、バラティエを休ませてもらうか。
モリアが家にいても、ペローナの言うとおり、アブサロムが在宅中は顔を見せない方がいい。

そんなことを考えていたら、薄暗い夜道が気になり始めてしまった。

(大丈夫、まだ8時だもん。人通りだって、まだこんなに多い……。)

大丈夫と言い聞かせていても、やっぱり背後が気になってしまい、ダメだと思いながらもつい振り返ってしまう。
どくん、どくん、と嫌な心音を響かせながら振り向くと、遠く離れた電柱の陰に、昨日と同じくぎらりと光る二つの目。

「……ッ」

どっと汗が吹き出して、ムギは速足に歩き出す。
二度と振り向いちゃダメだ。
ああ、だけど、このまま帰ったら今度こそ家を知られてしまうかも。

様々な思いが錯綜し、混乱するまま、知りもしない脇道を適当に歩いた。
そのうち自分がどこにいるのかわからなくなってしまい、ますます焦燥感が募っていく。

かつ、かつ、かつ。

思い込みだろうか、背後から迫る足音が近づいてくるような気がする。
大丈夫、大丈夫、アブサロムは気が小さい男だから、直接声を掛けてくることなんかない。

かつ、かつ、かつ。

振り向かなければ、目を合わさなければ、アブサロムは“暴走”しない。

だから……。


「……おい。」

真後ろから男の囁き声が落ちて、大きな手がムギの肩をがしりと掴む。
その瞬間、ムギの肌はぞっと粟立ち、手にしていたスクールバッグを無我夢中で振り上げた。

「やだ……ッ!」

バイトで培った筋力を駆使して振り上げたバッグは、背後に立った男に見事命中した。



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